平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐久間哲『死刑に処す 現代死刑囚ファイル』(自由国民社)

死刑に処す―現代死刑囚ファイル

死刑に処す―現代死刑囚ファイル

死刑囚を書き記した名作に、村野薫『戦後死刑囚列伝』(洋泉社)がある。本書はその平成版といえようか。とはいえ、藤本事件、財田川事件、島秋人など、昭和中期の死刑囚なども取り扱われているので、“現代”死刑囚ファイルという副題には少々疑問を感じる部分がある。すでに色々な人が語っている彼らを取り扱うより、知られていない死刑囚を取り扱ってほしかった。

取り扱われている死刑囚は、それぞれテーマに沿って書かれている。早期執行、不公正裁判、少年死刑囚、再審無罪、再審請求中の執行、被害者遺族との交流、拘禁性精神障害、上告取り下げ、償い、恩赦、獄中訴訟、女性死刑囚、法務大臣、獄中死、再審開始、大量殺人、外国人死刑囚、部分冤罪、再犯、獄中短歌である。この中には『戦後死刑囚列伝』と同一テーマ、同一死刑囚を取り扱ったものもあるが、新しいテーマもあるので、比べてみるのも面白いだろう。

本書の圧巻は、巻末の「死刑確定事件リスト」。1947年3月以降における死刑確定事件のリストが載っている。罪名と事件概要程度しか載っていないが、よくぞここまで調べたと思う。笑月さんには敵わないだろうが。

死刑囚は拘置所という大きな壁が存在し、周りの人もそっとしてほしいという感情があるため、取材はとても難しいものと思われる。平成の今になって、このようなテーマに取り組んだ筆者の意気込みを買いたい。

ただ、「あとがき」に書かれていることは、本書の内容とほとんど関係ない。様々な死刑囚を通して見るということだけでは、死刑という問題に直面する機会には成り得ないと思われる。

著者の佐久間哲はフリージャーナリスト。『恐るべき証人−東大法医学教室の事件簿』(悠飛社)、『魔力DNA鑑定』などの著書がある。