平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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歌野晶午『ジェシカが駆け抜けた七年間について』(原書房 ミステリー・リーグ)



カントクに選手生命を台無しにされたと、失意のうちに自殺したアユミ。ジェシカは自分のことのように胸を痛め、カントクを憎んだ。――それから七年、ジェシカは導かれるように、そこへやって来た。目の前には背中を向けてカントクが立っている。ジェシカは側にあった砲丸に手を添える。目を閉じるとアユミの面影が浮かび上がる――。

死んだ彼女のためにしてやれることといえば、もうこれしかないのだ。(粗筋紹介より引用)



『葉桜の季節に君を想うということ』でメジャーになった作者の長編。すでに新刊が出ているのに、今頃読むかい、自分は。

女子マラソンの世界を舞台にしたところは目新しい。ただ、それだけだな。事件そのものは、読者だけに謎を提出しているに過ぎず、小説の中では何の不思議も謎も存在しない。途中、小ネタみたいな謎があるけれど、物語そのものにはまったく関係のない話である。さらにひどいのは、解決そのものを読んでも、爽快感がまったくないことだ。だから、どうしたの?といいたくなる解決である。小説の中では全く謎が無く、読者にだけ謎を提供しようとすると、いつかは読者を無視した失敗作が現れるだろうな、といった危惧を実践したような作品。つまらないの一言で切り捨てていいだろうね、これは。