平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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遠藤汐『昭和ロボット漫画館』(アドプレス)

昭和ロボット漫画館

昭和ロボット漫画館

ロボット漫画第一号、田河水泡「人造人間」(昭和4年)からロボット三等兵〜鉄腕アトム鉄人28号サイボーグ009ゲッターロボドラえもんまで。

昭和の少年に愛されたロボット、サイボーグ漫画、46作品を時代背景を交えて紹介。貴重な図版約70点使用!(表紙より引用)



戦前〜終戦直後、お笑い系、アンドロイド、巨大ロボット、ロケット系、サイボーグ、変わり種ロボットと7つの章に分け、様々なロボット、サイボーグ漫画を紹介している。ロボットアニメという観点で書かれたものは多いが、漫画をこういう形で分類して紹介する評論は珍しいだろう。

収録されている作品が多種多様。「ロボット三等兵」からアトム、8マン、ハニー、アラレちゃんといったアンドロイド。鉄人28業、13号、ガロン、ジャイアントロボマジンガーZといったロボット。009、超人間ケリー、電人アローといったサイボーグ。さらに山上たつひこの鋼鉄男やバカボンに出てくるロボットまで、ありとあらゆるところからここまで集めてきたその努力に感服。連載されている時代や掲載雑誌まで様々な背景を考慮に入れた解説も読みどころ満載だ。プロレス関連の著書もある作者なので、ところどころでプロレス的蘊蓄が出てくるところはご愛敬である。巨大ロボットアニメのコミック化を除き、日本にはこれだけ多種多様なロボット漫画があったということを知らされただけでも、大いなる喜びである。

この本の最大の欠点をあげよう。それは作品がどのコミックスに収録されているか、どの版で読むことができるかが全く書かれていないことだろう。「鉄人28号」や「鉄腕アトム」「ドラえもん」ならすぐに読むことができるが、ジョージ秋山「ザ・ムーン」なんかどう探せっていうんだよ(泣)。寺田ヒロオ「ロボット兄弟」なんて、どうしたって読むことができないじゃないか。



この本を読んで、どうしても読んでみたいと思った作品は、水木しげる「サイボーグ」。どうやら“サイボーグ”というタイトルがついた初めての漫画らしい。せっかくなので引用する。

昭和36年、宇宙学の権威、東大の中谷博士は、講堂で、学生たちに宇宙飛行士の志願を呼びかける。10年間の訓練を経て、昭和45年、アメリカのケープカナベラルより月に向かって打ち上げられるロケットに搭乗できるというのだ。そしてそれはノーベル賞一ダースに匹敵する栄誉だと、後世に名を残す偉業だと、熱く語る。

但し条件があった。

「宇宙に行くためには、体を改造せねばならぬ。つまりサイボーグ(機械人間)になるのだ!」

10人の志願者から尾花建二青年が合格し、過酷な改造手術が施される。

寸胴な筒に大きなひとつの目、口も鼻もなく言葉も喋れない。泣くことさえできない。そんなサイボーグというより怪物になってしまった尾花を見て、恋人も実の母親さえ離れていく。

見事訓練に耐え抜き尾花はサイボーグとして、ケープカナベラルに向かうのだが……。

凄く読みたい。どうしても読みたい。すごく怖い漫画だと思う。読んだらトラウマになりそうだ。だけど読みたい。



読者がこういう風に思うということは、漫画そのものもいいのだが、やはりセレクトと紹介の仕方がいいのだろうなあ。評論やガイドブックを書くなら、読者にこう思わせるだけの実力を付けなきゃだめだよ。