平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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天藤真『雲の中の証人』(創元推理文庫 天藤真推理小説全集15)

弟が横領して自殺したのは誤りである。弟の死因をつくった女性を探してほしいと探偵事務所に来た姉の言葉を信じ、私は休日を利用して捜査に乗り出す。「逢う時は死人」。

窃盗で捕まった常習犯は、後半でとんでもない嘘をつく。法廷コント「公平について」。

3000万円強盗殺人事件で捕まった男の無実をはらさなければならない。状況証拠では絶対不利な状況を覆すために、雲をつかむような証人さがしを命じられた私。中編、「雲の中の証人」。

一族から排除された男が考え出した殺人計画。「赤い鴉」。

事故で心が入れ替わってしまった男同士の、その後の悲劇。「私が殺した私」。

希望校には入れず、地方の大学に入って絶望状態だった私の前に現れた、すてきな助教授。女子大生の悲喜劇を書いた「あたしと真夏とスパイ」。

一見単純にみえた傷害致死事件の真相は。「或る殺人」。

他、ショートショート「鉄段」「めだかの還る日」。

1962〜1972年に発表された中短編を集めた推理小説全集第15巻。



中編「雲の中の証人」に見られるような、人を食ったような設定がこの人の持ち味の一つなのだろうと思う。ちょっと呆気にとられるような状況で、どのような解決を見せるか。そこまでのコミカルなやり取りが面白いといえば面白い。ただね、この人は短編より長編の方が、持ち味を出し切ったんじゃないだろうか。短編だと、何となく中途半端で終わっている気がするんだよね。もっと書くことができたんじゃないか、みたいな。