- 作者: 光原百合
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/02/23
- メディア: 単行本
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文芸サークル誌10周年パーティーの席で、もうすぐ結婚するお嬢様は、会員からもらった薔薇の花をちぎっていた。「花をちぎれないほど…」
僕の携帯にかかってきた間違い電話は、今時珍しいくらい清楚な女性からのものだった。「彼女の求めるものは…」
デザイン事務所の社長は、かつての同級生でライバルの売れない画家が死ぬ寸前、画家の妻に睡眠薬を飲ませた。「最後の言葉は…」
女優が語る、小学校時代の謎の事件。「風船が割れたとき…」
洋館の持ち主が語る、ある家族の崩壊の一幕。「写真に写ったものは…」
僕は先輩から、忘れ物を渡したいという人がいると紹介される。しかし僕には、落とし物をした記憶がない。「彼が求めたものは…」
いよいよ開幕する劇団φの初回公演。コヤ入りした日、管理人から劇場に美しい女性の幽霊がいると聞かされる。「…そして開幕」
ここまで謎が薄いと、とてもじゃないがミステリと呼べないんじゃないか、といいたくなるような短編もある。いくら「日常の謎」とはいえ、ちょっとなあと文句を言いたくなるところもあるが、これがこの人の持ち味、資質なのだからどうしようもない。いやなら読まなければいいだけの話だ。
相も変わらずの、善人たちが繰り広げる物語。まあ、中には陰惨な事件がないこともないが、それでも事件全体がオブラートに包まれたようなイメージしか浮かび上がってこないのは、この作者ならではか。この作者、陰惨な殺人事件が起きるような物語を絶対書かないだろうな。
こういう心温まる物語を好む人には格好の作品なんだろう。だけどこの手の話が胡散臭く見えて仕方がないようになってしまった自分にとっては、温い作品集でしかない。この辺は、好みの違いとしかいいようがない。どちらかといえば、自分が偏屈になってきたというだけなのかもしれないが。この作者に望むのは、好みが違う読者をも引きつけるだけの作品を書いてほしいということだ。