- 作者: 多島斗志之
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 1999/01
- メディア: 文庫
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1991年に徳間書店より刊行された長編の文庫化。
寡作ながらも大仕掛けのある優れた作品を数々提供してくれる作者だったが、このような本格長編推理小説を書いているとは知らなかった。勉強不足である。
誘拐事件の真相が一つ一つ暴かれていくその推理も楽しいが、瀬戸内海の小島という閉鎖性をうまく取り扱い、描ききった作品ともいえる。ヒロインの描かれ方や考え方などが、読んでいて特に印象に残った。それでもこの作品があまり取り上げられないのは、やはり作者の名前があまり広がっていないことと、作品がやや地味であるためなんだろうと思う。これが別の作家だったら、エキセントリックな名探偵を配し、派手な解決シーンを入れているかもしれない。そうすれば本格ミステリとして盛り上がり、もう少し取り上げられただろう。ただ。この作品の叙情性を考えれば、これで正解だったといえる。ゆっくりと作品を味わいたい人にお勧め。