- 作者: 花村萬月
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1992/08
- メディア: 新書
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1992年8月、書き下ろし刊行。
個人的に、花村萬月という名前を知ったのは本作品。このミスなどで選ばれて、一気にブレイクした感があった。とはいえ、読むのは今更かいと言われそうだ。『笑う山崎』とかは面白かったら、そのとき一気に読めばよかったとちょっと後悔している。
関西系暴力団に属し、港湾関係作業全般を取り仕切る会社、山野興業の専務取締役であり、何かあったら日本刀を振り回す同性愛者の徳山。アメリカでギタリストをしていたが酒で身を崩した後に強制送還され、今では横浜のドヤ街に住みながら巨大タンカーのスラッジ清掃に従事する村上、そして横浜の店でブルースを歌うハーフの美女、綾。徳山は村上のことが好きで、綾は徳山のことがお気に入りだった。しかし始めて入った店で徳山は綾を知り、綾は村上のギターを知り、二人は恋に堕ちる。
ここにあるのは暴力で彩られ、ブルースが奏でる愛の形。
暴力シーンが多く、その描写は濃密。理不尽な暴力行為も多く、読んでいて不愉快になるような場面ばかりなのだが、読んでいるとその魅力に引き込まれ、ついページをめくってしまう、そんな小説。出てくる登場人物のみんなが自分勝手なのに、なぜか共感してしまう部分もあり、そんな自分に少々苛立ちを覚えたりもしてしまった。
ブルースを作品世界へ十分に浸透させ、歪な愛の形を表現しきった傑作であった。ただ、こういう作品を何冊も読みたいとは思わない。ある意味、中毒になってしまいそうな作品であり、これ以上摂取すると堕ちてしまうような作品でもある。