平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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渡部又兵衛『お笑い芸人 糖尿病と二人連れ』(グラフ社)

お笑い芸人糖尿病と二人連れ

お笑い芸人糖尿病と二人連れ

1988年に結成され、様々な方面から高い評価を得てきた社会派風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」(TNP)の結成メンバーであり、現在まで唯一残っている創立メンバーである渡部又兵衛が、自らの生い立ち、劇団時代、コント、TNP結成、糖尿病との日々などを赤裸々に語った一冊。重度の糖尿病にかかり、人工透析を受け、網膜症を患い、そして左足膝下を切断。それでも義足をつけ、TNPの舞台に上がり続ける芸人魂の本音を語る。

渡部又兵衛を初めて知ったのは、『お笑いスター誕生!!』に「キモサベ社中」のメンバーとして出演したとき。当時の「キモサベ社中」はバックバンド2名を従え、コントやラジオ番組ネタなどをやっていたが、ネタの面白さにムラがあり、何度も再チャレンジをしていたが結局6週までしか勝ち抜けなかった。しかし1983年の「サバイバルシリーズ」では20組のトーナメントで見事優勝。賞金100万円を手にした。この時の出演者の中には、イッセー尾形やでんでん、コロッケなど、現在でも活躍している人も多数いる。

その後キモサベ社中を解散、新たにコントトリオ「キャラバン」を結成し、第6回オープントーナメントサバイバルシリーズでは初出場で優勝。さらに第1回NHK新人演芸コンクール<演芸部門>最優秀賞を受賞している。

本では、まず第一章に笑いを掴んだときの快感が書かれている。この辺は当たり前の事でも、実際に演じている人からの言葉には思わず頷いてしまう。第二章では糖尿病生活の日々。糖尿病の恐ろしさを伝えながらも、明るく生き続け、入院生活でもネタを探し続けるその根性には恐れ入る。何も知らない人が読んで、本に引き込まれていくのはこの章であろう。自らの生い立ちなどを最初に配置せず、糖尿病生活を第二章に配置した編集者の腕はさすがである。

第三章は芝居の面白さを知る少年時代。第四章は芝居づけの青春時代。劇団に入りながらも劇団員になれず、アルバイトと端役ばかりの日々。このあたりは、よくあるのかどうかは知らないが、売れない演劇青年なら一度は通る道ではないだろうか。この辺はそれほど面白さを感じない。

第五章はキモサベ社中、キャラバンのエピソードが書かれている。お笑いスタ誕ファンなら、やはりこの章が一番興味あるところであろう。キモサベ社中解散のエピソードや背景などは、トリオが抱えている問題点を見事についていると思うのだが、どうだろうか。それにしても、キモサベ解散の背景は予想外。一度は栄冠を勝ち取ったあとの転がりぶりというのは恐ろしい。

第六章はTNP結成から今までの流れを書いている。TNP結成のエピソードは結構有名だが、その後の流れは初めて知ることが多く、大変面白かった。特にキモサベ時代から行動をともにしてきた松崎菊也(今では『戯作者』としてエッセイスト・コメンテータ・ラジオパーソナリティとして活躍)に対する視点はかなり意外なものだった。この辺は是非とも読んでもらいたいところだ。

渡部又兵衛の本音というものを包み隠さず書いた一冊。作者自身を知らなくても、糖尿病のくだりなどは感銘を受けるだろう。それでもやはり、この一冊は渡部又兵衛を一度でも見たことがあるという人に、是非とも手にとってもらいたい本である。