平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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青崎有吾『地雷グリコ』(KADOKAWA)

 亜麻色のロングヘア、子猫のように身軽で飄々としている少女の名前は射守矢(いもりや)真兎(まと)。都立頬白(ほおじろ)高校1年4組。勝負事には異常に強い彼女は、風変わりなゲームの戦いに巻き込まれる。
 頬白祭の屋上という場所取りをかけて戦われる「愚煙試合」。決勝戦の相手は、過去二年優勝している生徒会代表の三年一組、(くぬぎ)迅人(はやと)。頬白祭実行委員一年の塗部(ぬりべ)が考案した決勝のゲームは、頬白神社の四十六段の階段をジャンケンで勝ったらグリコ、パイナップル、チョコレートで上がっていくゲーム。ただし、踏んだら十段下がる地雷を互いに3つ仕掛けていた。「地雷グリコ」。
 喫茶店かるたカフェで、かるた部のメンバーとマスターが揉めてしまい、出禁となってしまった。出禁を解除してもらうべく、真兎はマスターと、百人一首を使った神経衰弱に挑む。男と姫のペアを揃えるゲームだが、坊主をめくると今まで手に入れた札を全部捨ててしまうことに。「坊主衰弱」。
 生徒会長、佐分利(さぶり)錵子(にえこ)が真兎に勝負を挑んできた。真兎が勝った時の景品は、雨季田(うきた)絵空(えそら)との勝負と聞かされ、真兎の顔色は変わった。勝負は七回勝負のジャンケン。ただし、グーチョキパーの他に、互いに考案した独自手も出すことができる。「自由律ジャンケン」。
 国内有数のエリート校、私立星越高校。その校内で使われているSチップは1枚10万円。門外不出のはずのチップを3枚持っていた生徒会長の佐分利はそれを元手として、星越高校の生徒会に勝負を仕掛ける。真兎と巣藤が勝負するのは「だるまさんがころんだ」だが、入札した数字だけ動き、振り向くことができる。「だるまさんがかぞえた」。
 中学校の同級生だった射守矢真兎と雨季田絵空には何があったのか。二人の勝負は、4部屋に伏せられたトランプで勝負するポーカー。「フォールーム・ポーカー」。
 『小説屋sari-sari』『カドブンノベル』『小説野性時代』掲載作品に書き下ろしを加え、2023年11月、KADOKAWAより単行本刊行。2024年、第24回本格ミステリ大賞(小説部門)、第77回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)、第37回山本周五郎賞受賞。

 話題にはなっていたが、青崎有吾にあまり期待を持ていなかったので今までスルーしていたが、1週間でトリプル受賞となれば、さすがに読んだ方がいいだろうと思って手に取る。
 「地雷グリコ」の最後の仕掛けは誰でも思いつくものだが、そこまでの誘導にいたる思考のやり取りは面白く、期待は持てた。ところが「坊主衰弱」が平凡すぎて、今一つ。ここまでかと思ったら「自由律ジャンケン」はなかなかのもので、さらにゲームバトルだけでなく、ストーリーも期待が持てる展開となった。盛り上がってきたところで、「だるまさんがかぞえた」の衝撃にやられた。盛り上がったところで「フォールーム・ポーカー」が来た。ゲームそのものよりも、闘う少女2人のやり取りが実に面白い。大満足の読み終わりとなった。
 いやあ、これはやられました。青崎有吾は数作読んだだけだが、謎に比べて舞台やキャラクターの設定が強引で、さらにストーリーも今一つで面白さに欠けていたのだが、本作はその弱点を見事に克服した。頭脳バトルの面白さだけでなく、その世界観を支えるキャラクター作りがよくできている。そして主人公はなぜゲームを戦うのか。こういったストーリーの謎が加わることで、頭脳バトルの面白さを倍増させている。特に「だるまさんがかぞえた」はしびれました。これは映像化で見てみたい。さらに衝撃が倍増するだろう。
 協会賞と山本賞受賞は納得。ただ、これが本格ミステリなのか、という点についてはちょっと疑問。まあ、作品自体の評価には関係ないことだけどね。今年度のベスト候補と言われるのも納得。できれば続編を読んでみたい。一番好きなキャラクターは、第1話と5話のゲームの考案者、塗部くん。彼がどんな彼女と付き合っているのか、ぜひ書いてほしいものだ。