平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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東野圭吾『聖女の救済』(文藝春秋)

聖女の救済

聖女の救済

IT関連会社の社長である真柴義孝は、鍵のかかった自宅で亜ヒ酸の入ったコーヒーを飲んで死亡した。自殺する原因はないが、どこに亜ヒ酸が入っていたのかが不明。義孝は、パッチワーク作家として有名な妻の三田綾音に、1年以内に子供ができなかったから、と離婚を継げていた。そして、自らの子供を妊娠した、綾音の弟子の若山宏美と結婚するつもりだった。動機は十分だが、綾音に魅かれた草薙刑事は犯人説を否定。さらに綾音には実家のある札幌にいた鉄壁のアリバイがあった。そして、毒物の入手先も混入方法も不明だった。内海薫刑事は些細な言動から綾音が犯人ではないかと疑り、草薙と対立する。内海が相談した“ガリレオ”こと物理学者・湯川が出した答えは「虚数解」。これは完全犯罪なのか。

ガリレオシリーズ第5作、第2長編。『オール讀物』2006年11月号〜2008年4月号連載。2008年10月発売。



今頃手に取るかと言われそうだが、興味が湧いたので家にあったのを読んでみた。

事件そのものはシンプル。犯人はわかっており、どうやって毒を飲ますことが出来たのか、という一点に事件の謎はかかっている。ちょっとした引っ掛かりがあったとはいえ、まさに「女の勘」で綾音を追いかける内海刑事。一方綾音に魅かれてしまい、綾音の無実を証明するかのように「男の意地」で被害者の周辺を追いかける草薙刑事。女と男の闘いみたいな状況になっているが、事件そのものも女と男の考え方の違いから発生している。はっきり言って男の我儘というような事件ではあるが、それにしても綾音の心情が悲しすぎる。「毒の混入」だけだったら予想は付くかもしれないが、現場の状況がそれを否定している。その「トリック」には、泣けてくるといってよい。

なんだかんだ言っても、やはり東野圭吾は読ませるだけのミステリを書いてくれる。さすがとしか言いようがない。