- 作者: 伊兼源太郎
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2013/10/01
- メディア: 単行本
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2013年、第33回横溝正史ミステリ大賞受賞。応募時タイトル『アンフォゲッタブル』。加筆修正の上、改題して2013年10月刊行。
作者は元新聞社勤務。2009年から2011年には江戸川乱歩賞最終候補、2010年には松本清張賞の最終候補に残っている。本作は当初応募を予定していた賞より原稿枚数がオーバーしたから、横溝賞に矛先を変えたものだそうだ。
選評では全員が前半良くて後半が今一つと書かれているのだが、私自身の感想もそのまま。テレビの街頭インタビューで異論を言ったら、命を狙われるようになったという展開は面白い。しかもバックにあるのが、流行のSNSサイト。ポイントに踊らされる若者という設定が非常に良い。ここまでは面白かったんだけどなあ(どうでもいいけれど、本当に実行したかどうか誰が確認するのだろう)。
主人公が寺の息子というキャラクターは良かったのだが、少林寺拳法の達人で、天才ハッカーが友人にいて、幼馴染みの親友が美人の女性刑事というのはさすがに都合良すぎ。しかも一人でどんどん突っ走ってしまうし。もう少し弱点がないと、全く感情移入できない。おまけに登場人物が少ないから、事件の黒幕がすぐにわかる。それだけならまだ許せるが、事件の動機が首をひねるしかない。結末直前の無駄なアクションシーン、最後に繰り広げられる一昔前の大演説青春物語はなんなんだ、一体。せっかくの世界の広がりが、なぜここまでチープな展開で閉じなければいけないのか。前半と後半の落差がこれだけ大きいのも珍しい。
ヒロインの千春も、結局は今光の小間使いで終わっている。千春が悩むシーンなんて、不要だったじゃないか。他の人たちも含め、もう少し登場人物を活かすということを考えるべきだった。そもそも主人公自体、うまく描けていないし。最初は若年寄かと思っていた。それと他のシーンでは無駄な部分が多い。やはり削ることをもっと考えるべき。あと、無駄な殺人も多かったな。
選評でも結構苦しいものが多い。将来性を買っての受賞なのだろうが、広げた風呂敷を畳めないようでは、今後も苦しいか。化けることを期待する。