- 作者: 佐木隆三
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1982/12
- メディア: 文庫
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日本軍として戦った台湾の高砂族について書いた「見たかもしれない青空」。『オール讀物』1977年11月号掲載。
1975年6月17日に発生した北九州組員4人連続殺人事件について書いた「狙撃手は何を見たか」。『小説現代』1977年7月号掲載。
1975年8月23日に発生した寝屋川若夫婦強殺事件について書いた「閃光に向って走れ」。『問題小説』1978年2月号掲載。
1978年2月、文藝春秋より刊行。1982年12月、文春文庫化。
犯罪物を集めた短編集。戦中・戦後を扱った前2本は、佐木にとっては異色の題材である。もっともあとがきを読むと、本人はこのような路線の作品を続けていきたいという意向があったようだ。個人的には興味がない分野であり、読んでもそれほど面白さを感じなかったので、これ以上の感想は控える。
「狙撃手は何を見たか」は先に書いたとおり北九州組員4人連続殺人事件が題材である。作者は後に犯人から手記を受け取り、それをまとめるような形で『曠野へ―死刑囚の手記から』を書いている。本短編はそれに向けての抜粋としか言えないような仕上がりであり、読んでいても内容に膨らみがなく、面白さに欠ける。
「閃光に向って走れ」は、被害者周辺を調べても容疑者が全く浮かび上がらず苦悩する捜査陣が書かれているが、鍵の件に気付いた下りから一気に犯人へ迫る部分は駆け足で物足りない。犯人にしても、鍵を持っていたからいつか盗みに使おうと思ってチャンスを窺い、いざ盗みに入ったら思惑と違っていたので殺しました、というだけの描写に終わっている。やはり殺人に至るまでの犯人像に深く迫ってほしかったというのが本音である。
この辺の短編群は、『殺人百科』シリーズのテイストで書かれたのであろうが、そちらに比べても今一つ内容への突っ込みが足りなく感じるのは気のせいか。今までだったら裁判を通して判決が出るまでを書いていたのに、本書では逮捕の時点で終わってしまったことが要因と思える。
正直に言ってしまうと、今ひとつな作品群。あまり取りあげられない事件を題材としていることが救いだろうか。