平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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スティーヴ・ハミルトン『解錠師』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイク。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に……。非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞など世界のミステリ賞を獲得した話題作。(粗筋紹介より引用)

2009年発表。アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞MWA賞)最優秀長篇賞、英国推理作家協会賞(CWA賞)スティール・ダガー賞、バリー賞最優秀長篇賞、全米図書館協会アレックス賞を受賞。2011年12月、ハヤカワ・ポケットミステリより翻訳。このミス、文春の海外部門でいずれも1位を獲得。2012年12月、文庫化。



近年の本では珍しく読んでみる気になった一冊。さすが、数々の賞を穫っただけのことはある。確かに傑作だ、これは。マイクが高校生となって解錠師になるまでと、マイクがプロとしての姿が交互に記載される。マイクが過去を振り返るという設定なのに両者を交互に記載するというスタイルに何の狙いがあるのかわからず、特にプロ後の緊張感が途中で途切れる点に違和感があったものの、途中からはそれほど気にならなくなり、結末まで読んでようやく納得。こりゃ絶妙だ。

解錠師になるまでのサイドは青春小説に近い。一種の成長物語でもあり、恋愛小説でもある。一方プロサイドは、非情な犯罪世界に生きるスリルとサスペンスが絶妙で、特に金庫を開ける際の描き方は、まさにプロの犯罪者としての緊張感が全編にみなぎっている。どちらも一級の物語だが、同じ調子で書かれるとどこかで破綻するか飽きてしまうかしてしまうに違いない。それを交互に書くことで相互の面白さを強調することができ、マイクという人物の姿をより悲しく浮かび上がらせることに成功している。それにラストもいいねえ。色々な意味で、マイクには幸せになってほしい。

全米図書館協会アレックス賞は、ヤングアダルト世代に読ませたい一般書に与えられる賞だそうだ。確かにこれは、そう思わせるだけの価値がある一冊。うん、いい本を読ませてもらった。