平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

藤子・F・不二雄『中年スーパーマン左江内氏』(小学館 藤子・F・不二雄大全集)

中年スーパーマン左江内氏/未来の想い出

中年スーパーマン左江内氏/未来の想い出

藤子・F・不二雄大全集第3期第6回配本の一冊。うだつの上がらない係長である左江内氏が、常識化、小心、目立たないの三条件を持っていることから、先代よりスーパーマンに選ばれる。しかし、相手を助けた記憶は消されてしまうことから、あくまで縁の下の力持ち。日常とのギャップに悩む悲しい中年ヒーローの話を描いた「中年スーパーマン左江内氏」。『週刊漫画アクション』1977年9月15日号〜1978年10月26日号まで月一回連載。

すっかり落ちぶれてしまった漫画家の納戸理人(なんどりひと)。ゴルフコンペでホールインワンを出してしまい、心臓マヒで死亡。そして理人は、上京した過去に戻る。実は理人は、上京からホールインワンを出すまで、何度も同じ歴史を繰り返していた。ところが理人はあるとき、その事実に気付く。記憶をもったまま過去に戻った理人は、今度こそ幸せな人生を掴もうとする「未来の想い出」。『ビッグコミック』1991年6月10日号〜8月25日号連載。

藤子Fでは珍しい、というよりこれしかない、青年誌連載作品2つ。ペーソスあふれる佳作である『中年スーパーマン左江内氏』と、藤子F版「まんが道」とも呼ばれた『未来の想い出』。毛色の違う2作品であるが、並べて読むとやっぱりこれは藤子F作品だと思わせるのは、絵柄だけではなく、作中に流れる温かさと言えるだろうか。『中年スーパーマン左江内氏』の最後で成長したパーやんが出てくるのは、作者らしいサービスなのだろうが、『未来の想い出』では理人の授賞式にトキワ荘メンバー(藤子F、藤子A、石森、赤塚、つのだ)が登場するのはサービスではなくて、別の感情があったのだという気がする。この作品から5年後に亡くなったことを考えると、何かを暗示しているのではないかと思うのは気のせいだろうか。それと『未来の想い出』で今頃気づいたのは、最後の爆発事故の伏線がきちんと張ってあったこと。何げない描き方をしても、細部まで計算されているのは、集中連載とはいえさすがだ。

やはり藤子Fには児童物がふさわしいと思うのだが、あと何本かは長編も読んでみたかった気がする。