- 作者: 五十嵐貴久
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/02/08
- メディア: 文庫
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2001年、第18回サントリーミステリー大賞優秀作品賞受賞作。後に応募作へ手を加え『別冊文藝春秋』に連載。2005年、文藝春秋より単行本化。2008年、文庫化。
2001年に『リカ』で第2回ホラーサスペンス大賞を受賞してデビューした作者の、幻のデビュー作。犯人の拘束から偶然免れることができた経理部社員の高井由紀子が、人質となっている婚約者を救うため、たった一人で武装集団に立ち向かう。女性版『ダイ・ハード』などとも書かれていたが、肝心の『ダイ・ハード』を知らないため、そこはパス。
大賞を受賞できなかった作品ではあるが、当時の選評を読んでみたい。さすがにこれは受賞できなくても仕方がない、荒唐無稽なストーリー。多分、リアリティがない、の一言で斬られたのだろうなあ。
突っ込みどころは盛り沢山。そもそも窓から吹き飛ばされ、ゴンドラがある位置に落ちるか? というところから事件は始まるし、腕立て伏せすら満足にできない女性がいくら恋人のためとはいえ奔走するのも無茶すぎ。銃を使えば簡単に解決するはずなのに使おうとしない連中も不思議だ。髭の有る無しでごまかせると思っている主犯も変だし、犯人の狙いに気付かない警察も間抜けに見えてくる(まあ、警察なんて実際に間抜けなんだろうが)。だいたい、この状況でそんな逃亡方法が通用するわけないだろう。他にも、細かい点(コンピュータルームでハロゲン化消火器を置いていないなど)を挙げれば限りないのだろう。面倒だから数えないけれど。
ただ、この作品の面白さは、そのような荒唐無稽ぶりを前提に置いた、スピーディー娯楽アクションエンタテイメントであるところ。はっきり言ってしまえば、リアリティなどどうでもいい。タイムリミット・サスペンスとして楽しめればいいんですよ、という点に徹している作品なのである。そういう風に割り切ってしまえば、楽しく読むことができる。