平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大倉崇裕『福家警部補の挨拶』(創元推理文庫)

福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)

福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)

冒頭で犯人の視点から犯行の経緯を語り、その後捜査担当の福家警部補がいかにして事件の真相を手繰り寄せていくかを描く倒叙形式の本格ミステリ。本への愛ゆえに殺人も辞さない私設図書館長の献身「最後の一冊」、科研警主任として鳴らし退職後は大学講師に転じた“教授”が厭わしい過去を封じる「オッカムの剃刀」、二女優の長きにわたる冷戦がオーディションを機に火を噴く「愛情のシナリオ」、経営不振で大手に乗っ取られる寸前の酒造会社社長が犯す矜持の殺人「月の雫」、以上四編を収録。刑事コロンボをこよなく愛する著者が渾身の力を注ぐ第一集。(粗筋紹介より引用)

ミステリーズ!』Vol.12〜15に掲載された短編4本を集め、2006年6月に単行本として発売された短編集。2008年12月、文庫化。



刑事コロンボ』をこよなく愛し、ノベライゼーションも出している作者が、コロンボの手法を用いて執筆したシリーズ。主人公は名字と容姿以外がわからない女性警部補、福家(ふくいえ)。刑事に見えない姿や、いつの間にか犯人の側まで接近しているというのはコロンボと同じ……なんだろうなあ。実はコロンボも古畑も見たことがないので、よくわからないんだが(苦笑)。

犯人の視点から犯行を描き、その後捜査担当者が徐々に真相に迫り、思いもよらない犯人のミスを指摘して逮捕するという姿は、スタンダードすぎるほどスタンダードな倒叙形式の本格ミステリである。本作はいずれもその形式を踏襲しているので、倒叙ファンとしては実に嬉しい。正直なことを言えば、手がかりの出し方が少々露骨すぎる気がしないでもない。推理というよりは、なんとなくだけど違和感を覚えるようなところがだいたい犯人のミスに繋がっている程度の話なんだが。

このシリーズの欠点と言えば、本来その長所ともいうべきところ。形式がいつも同じなので、中身はどうあれ、「ああ、こうなるんだろうなあ……」と思わせてしまうところである。いってしまえばワンパターンであり、さらに福家の存在感が希薄であることから、課題はそのパターンを超えるべき犯行、もしくは登場人物を出すことができるかどうか。ということで次作に期待したい。いや、続編が単行本で出ていることは知っているんだけど。