- 作者: 今野敏
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/01/29
- メディア: 文庫
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2005年9月、新潮社より刊行。2008年2月、文庫化。
今野敏を読むのは10年ぶりくらい。様々な警察小説を書いていることは知っていたが、何となく読む気にならなかったのは、バイオレンスなども含めシリーズものが多いという私自身の偏見からであった。ただこの作品は2006年に吉川英治文学新人賞を受賞していることから、文庫化を楽しみに待っていた。読んでみての一言。面白かった。
多くの警察小説で悪役にされてしまうキャリアを主人公に持ってきたところが新鮮。しかも自身の地位を守ることに普請するばかりのステロタイプなキャリアではなく、国家を守るという信念を行動原理に据えているところが、この作品を成功に導いた要因のひとつである。戦争時における一部軍人のように、信念というのものは誤った方向に進む可能性があるため、書き方が難しかっただろう。地位に差があるとはいえ、本多正信のように私利私欲を考えず時の政府に忠実に動く人間というものは悪役になりやすいものだが、ここまで忠実な動きをしながらも読者の共感を得るように書くのは、よほどの実力がないと難しい。
それと、家族を顧みず組織の中で動くばかりでも、自らの信念を持って動くことが妻にちゃんと理解されているのは羨ましい。これも生き方が曲がっていないからだろうな。妻の方がよっぽどできた人物だとは思うが。
警察小説の歴史を変えた、という言葉に偽りはないだろう。ということで、次作も読んでみることにする。