平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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一橋文哉『闇に消えた怪人』(新潮文庫)

闇に消えた怪人―グリコ・森永事件の真相 (新潮文庫)

闇に消えた怪人―グリコ・森永事件の真相 (新潮文庫)

かい人21面相”の犯人名で有名なグリコ・森永事件。実際の事件期間は1984年3月〜1985年8月の1年半にも及ぶ。誘拐、放火、脅迫など様々な手段を用い、警察や食品業界、マスコミを翻弄。警察側の横の連絡が徹底できていなかったことによって、逮捕寸前の犯人を目の前でみすみす取り逃したこともあった。事件をまねた様々な脅迫事件が多く発生した。

結局逮捕者を一名も出さず、さらに一人も死者を出さなかったという意味で、色々な意味で日本を揺るがした事件であり、犯罪史上においても特筆されるべき事件の一つである。もっとも死者を一名も出さなかったというのは正確ではない。前滋賀県警本部長が自殺しているからである。

本書は、そんなグリコ・森永事件、警察的には警察庁広域重要指定第114号事件の事件発生から時効までを書き記した記録である。ただ表面に出てきた事実ばかりではなく、その裏にあった背景、隠された事実、疑惑などをも浮き彫りにした一冊である。

時効事件、そして脅迫事件という事件の性格上、当然関係者の口は重い。そんな中を、丹念な取材と証言を付き合わせて雪、事件の裏にあった様々な謎、疑惑をあぶり出そうとする作者の執念は、作者の苦労が全く書かれていないからこそかえって凄いものがある。

被害者側である各業者の裏側。各県警だけではなく、警察庁の中にもあった縄張り争い。事件を追い求めたマスコミ。捜査線上にあがった数々の容疑者。それらは全て、舞台化された事件の楽屋裏で起きていた出来事ばかりである。

本書には事件の主要年表、さらに“かい人21面相”が出した脅迫状が資料として載っている。

解説で触れられているが、この本はまさに事件のノーカット版といえる一冊なのである。我々が触れることのなかった、事件の裏側まで丹念に追い求められた、全ての記録ともいえるものである。

ただ、ここに書かれたことが、本当に全て真実のものかどうかは、読者に検証しようがないことなのだが。