平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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坂東眞砂子『狗神』(角川書店)

狗神

狗神

過去の辛い思い出に縛られた美希は、四十路の今日まで恋も人生も諦め、高知の山里で和紙を漉く日々を送ってきた。そして美希の一族は村人から「狗神筋」と忌み嫌われながらも、平穏な日々が続いてゆくはずだった。そんな時、一陣の風の様に現れた青年・晃。互いの心の中に同じ孤独を見出し惹かれ合った二人が結ばれた時、「血」の悲劇が幕をあける!不気味な胎動を始める狗神。村人を襲う漆黒の闇と悪夢。土佐の犬神伝承をもとに、人々の心の深淵に忍び込む恐怖を嫋やかな筆致で描き切った傑作伝奇小説。(「Bookデータサービス」より引用)

1993年11月刊行、書き下ろし。



死国』とともに坂東眞砂子の名前を一躍広めることとなった作品だが、例によって例のごとく積みっぱなしにしていた。『死国』が自分と波長が合わなかったことが、手に取る気分にさせなかった大きな理由だと思う。

しかしこちらは面白かった。最初は美希の寂しい日常が淡々と続くだけで盛り上がりに欠けたが、晃が登場してからの美希の心の揺らぎ、少しずつ迫ってくる破滅の足音、悲劇へと導く冷たい視線と言動等、読者に降りかかってくるおぞましさが急スピードで加速してくる。これは素直に、してやられたというしかない。

何で今まで読まなかったんだろう、と後悔した作品。坂東眞砂子の入門書としても最適な一冊かも。