平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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海月ルイ『子盗り』(文藝春秋)

子盗り

子盗り

京都の旧家に嫁いだ榊原美津子は、いくら不妊治療を続けても子供に恵まれなかった。親戚から養子を迎えるように迫られ、ついに「妊娠した」と嘘をついてしまう。臨月を迎える時期、美津子は夫とともに産婦人科から新生児を奪おうとする。

看護婦(執筆当時の呼称)の辻村潤子は、かつて大阪の織物問屋の一人息子と結婚し、娘を産んだ。しかし姑は娘だけをかわいがり、純子を邪険にした。さらに夫は浮気ばかりを続けた。そして娘とともに家を出たのだが、娘は取り替えされて親権を奪われ、夫には離婚された。五年前のことだった。

関口ひとみは、過食で太りすぎの女だった。飽きっぽい性格の彼女は、高校中退後、職を転々し、今はスナックで働いていた。同時に、伝言ダイヤルでデブ専援助交際を行っていた。ある日、気がついたら彼女は妊娠していた。気がついたときには、既に後期に入っていた。



望んでも産めない女。子供を奪われた女。母親になれないのに執着する女。三人の女たちの情念が交錯する傑作サスペンス。(ここだけ帯より引用)

2002年、第19回サントリーミステリー大賞・読者賞ダブル受賞作。



作品の半分以上を占めるのは、登場人物である美津子、潤子、ひとみの背景。子供というに女性でしか産むことができない存在のために悩む3人の女性の心情を、女性らしい視点で描いている。子を望んだり、子を求めたりする女性の本能ともいえる部分ばかりではなく、女性ならではのねちっこさ、いやらしさなども背筋が寒くなるぐらいきめ細やかに描かれており、その点に関してはお見事といいたい。

ただ、肝心の事件が起きてからの展開は、前半のきめ細やかさが嘘と思わせるくらい性急で、かつチープな仕上がりになっている。3人を絡めるならこの展開がまず最初に頭が浮かぶところだから、仕方がないのかもしれない。ただ、読者の想像を上回るものを用意してほしかったのも事実。せっかくの「女性心理サスペンスの佳作」が「安っぽい2時間ドラマ原作作品」まで落ちてしまったのは、かえすがえすも残念である。