平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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恒川光太郎『秋の牢獄』(角川書店)

秋の牢獄

秋の牢獄

十一月七日、水曜日。女子大生の藍は、秋のその一日を、何度も繰り返している。毎日同じ講義、毎日同じ会話をする友人。朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。彼女は何のために十一月七日を繰り返しているのか。この繰り返しの日々に終わりは訪れるのだろうか――。(帯より引用)「秋の牢獄」。

酒を飲んで帰る途中、彼はいつもと違う道に迷い込んだ。目の前に現れたのは、藁葺き屋根の民家。中にいたのは、翁の面をかぶった老人。老人は面を残したまま、消えてしまった。そして彼はその民家から出られなくなった。家は数日毎に全国各地へ移動する。しかし彼は出ることができない、家守になったのだ。「神家没落」。

リオは祖母と二人暮らし。ある日、リオは祖母の家に帰れなくなる。彼女は実は、四ヶ月前に行方不明になっていた小学生だった。そしてリオは、不思議な能力を身につけていた。「幻は夜に成長する」。

2006年、2007年に「野性時代」に掲載された短編を収録。



恒川光太郎待望の三冊目。昔読んだような、タイトルすらも忘れたような物哀しい物語をベースに置いた、不思議な現代の幻想ホラーを書き続ける作者。期待値は高いのだが、今回は今一つか。アイディアはいいし、物語も悪くないのだが、「夜市」のような、“物語の先”を読者の頭に浮かべるだけの作品を書けていないことがとても残念なのである。

「秋の牢獄」のような、手垢の付いたリプレイネタでも、彼の手に掛かっちゃうと、幻想性あふれる、ふわふわ浮いた不思議な感覚の物語に仕上がってしまうから感心してしまうのだが。ただ、その先を望みすぎるのは、酷なのかな。だけどこの作家には求めてしまいます。