平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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山口雅也『マニアックス』(講談社)

マニアックス

マニアックス

孤島で漂着物を収集する女性。彼女の正体は。そして過去にあった事件の真実とは。「孤独の島の島」。

作家として成功したモルグ氏の家に次々と訪れる客と不幸。「モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ」。

少年が目撃した、異星人による殺人事件。しかしその真相は。「『次号に続く』」。

メイドは女優志願。そのことを主人である女優に叱責される。女優は昔、メイドのような目を見たことがあったが……。「女優志願」。

ハリウッドの大物プロデューサーが見せられた、素人映画監督の作品とは。「エド・ウッドの主題による変奏曲―あるいは『原子プードルの逆襲(The Revenge of the Atomic Poodle Dog)』」。

団地で頻発する幼児墜落死事件。ある不気味な出来事に気付いた主人公。「割れた卵のような」。

作家が15年ぶりに再会する友人は、アンティーク・ドールハウスではヨーロッパ一の蒐集家だった。「人形の館の館」。

オール讀物」「小説non」「メフィスト」「小説新潮」に掲載された短編を収録。『ミステリーズ』の姉妹編。1998年発売。



新刊で買って今頃読む。体に馴染みきった、いつものフレーズである。

単行本ではそれぞれの節に分かれており、「孤独の島の島」「モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ」「『次号に続く』」が「I 蒐集家(コレクト・マニア)たち」。「女優志願」「エド・ウッドの主題による変奏曲』」が「II 映画狂(シネ・マニア)たち」。「割れた卵のような」「人形の館の館」が「III 再び蒐集家(コレクト・マニア)たち」と分かれていた。

『ミステリーズ』が本格ミステリの先鋭的な短編集だったとすれば、『マニアックス』はどちらかといえばホラーチックなサスペンス作品がほとんどである。

山口雅也だから、何か仕掛けてくるかと思っていたが、中身は思ったより普通に仕上がっていた。扱っている主題にはらしさが漂っているが、すっきり読みやすいし、後口も悪くない。ひねくれ度はほとんどないと言っていい。

「後口すっきり、洗練度アップ」ということを逆に表現するなら、読んだ後は何も残らない。出てくる主人公は面白い人物が多いので、もっと書き込んだら凄い作品ができそうだが、これをさらっと流すところが巧いんだと思う。

お薦めするなら「人形の館の館」。山口らしい皮肉な視点が、今(執筆当時)の本格ミステリらしさを漂わせている。

だけど、「嘘は書いてないよ」ではなく、「すべて見せていますよ」という本格ミステリを待ち焦がれている自分がいる。「すべて見せている」ふりをする本格ミステリに今のところ用はない。