- 作者: 木々高太郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/09/08
- メディア: 文庫
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しかし、編者・木々高太郎と有馬頼義の主張は、前書と比べて個性的でユニーク。その魅力に加え、裁判、証拠、毒物、監察、捜査の専門家による基礎知識の「解説」を四編収める本巻は、実際ミステリーを書く上でも有益な構成となっている。さらに松本清張の秀逸な“文章論”を収録。現在でも貴重な示唆に富むものだ。(粗筋紹介より引用)
1960年3月、光文社より出版された一冊。
“入門”と書いているが、入門書らしいのは専門家の書かれた「裁判と証拠」(桐山隆彦)、「毒物の知識」(佐藤文一)、「監察医の話」(吉村三郎)、「犯罪捜査」(長谷川公之)の四編と、「推理小説の文章」(松本清張)である。木々と有馬の文章は、入門という言葉には不適当と思われる。
先の四編は、推理小説を書く上で必要となる警察捜査などについての話なので、リアリティを必要とするのなら絶対覚えておきたい基礎知識である。とはいえ、実際の捜査では有り得ない捜査(例えば、一警部が全国を飛び回ったりするとか)が書かれていても、そこに前提条件が記されている(もしくは読者が阿吽の呼吸で理解している)のであれば問題ない作品もあるだろうから、その辺はケースバイケースで考えていけばいいのだろう。それに警察が出てこない推理小説もあることだし。念のために書くが、この本は1960年に出版されているから、あくまで当時のデータということは割り引いて考えなければならない。
清張の論は、まったくもってその通り、というしかない。「推理小説といえども、一般の小説とは少しも変わりないのである。ただ、トリックという特殊性のみに依存して、文章を考慮しないのは大変な間違いである」(本編より引用)。
有馬の「私の推理小説論」は、論というよりも、自らがどういうことを意識して推理小説を書いているのか、という話になっている。ただ、有馬の考え方もまた、一つの推理小説論だろう。「謎解き」という要素でジレンマを持っている人には、特に有益な話かと思われる。
木々「探偵小説の諸問題」は、いったい何を問題にしたいのかわからない論である。自分のいいたいことだけを書いて、すぐに次の項へ移ってしまうから、読者は意味の通じない戯言を聞くばかりである。せめて、序と結ぐらいはきちんと書くべきだったのではないか。
1960年当時、という但し書きがつくものの、今読んでも面白いものも多い。「入門」という部分には首をひねる部分があるものの、探偵小説から推理小説へ移る時代に書かれたもの、ということで勉強になる。