植物写真家の猫田夏海は北海道の撮影旅行の最中、「神の森で、激しい土砂崩れにより巨木が数十メートル移動した」という話を聞き、日高地方最奥部の古冠村へ向かう。役場の青年の案内で夏海が目にしたのは、テーマパークのために乱開発された森だった。その建設に反対していたアイヌ代表の道議会議員が失踪する。折しも村では、街路樹のナナカマドが謎の移動をするという怪事が複数起きていた。三十メートルもの高さの巨樹までもが移動し、ついには墜落死体が発見されたとき、夏海は旧知の<観察者>に助けを求めた!
<観察者>探偵・鳶山が鮮やかな推理を開陳する、謎とトリック満載の本格ミステリ!(粗筋紹介より引用)
2006年8月発行、書き下ろし作品。『非在』などに出てくる<観察者>鳶山シリーズ。
本格ミステリ大賞にノミネートされたから読んでみることにした。そうでもなければ、鳥飼否宇の作品を読もうとはこれっぽちも思わなかったに違いない。この人は二冊しか読んでいなかったのだが、ゴチャゴチャして読みにくいというイメージしかない。今回、そのイメージとはかけ離れた読みやすさにビックリした。成長したのか、それとも作品にあわせて書き方を変えていたのか。すんなりと読むことはできた。
話の序盤でアイヌネタが出てきたので、これはやばいんじゃないかと思う。アイヌネタの作品って、いいイメージがないからね。日本の教科書じゃ、アイヌが大和民族に侵略されたって話はほとんど出てこないし、政治家は今でも日本は単一民族国家だと思いこんでるし。読んでいるうちに、漠然とした不安は消えていったのでホッとした。まあ、これは本筋からかけ離れた話。
街路樹だけでなく、巨樹までが動くというファンタスティックな謎なのだが、解決方法があまりにも現実的すぎるというか、物理的すぎるというか。まあ確かにこの方法なら可能なトリックなんだけど、ちょっと肩すかしを食ったというか。舞台も悪くなかったから、期待しすぎたか。連続殺人事件のトリックそのものも、聞けば少々がっくりくるところがある。ただ、それらを払拭する驚きを与えてくれたのは、今回の事件の動機かな。これはやられた。
それでも個人的には、舞台と解決に落差を感じてしまうね。悪くはないんだけど、というところか。今回のような物理トリック、一昔前のノベルスに出てきそうなレベルのものとしか思えない(やや偏見な見方だし、実例を挙げろといわれても思いつかないんだが)。