平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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多島斗志之『二島縁起』(創元推理文庫)

二島縁起 (創元推理文庫)

二島縁起 (創元推理文庫)

瀬戸内で海上タクシー業を営む寺田の元に、奇妙な依頼が持ち込まれた。五つの島々をまわって数人ずつ客を拾い、合計二十五人を輸送してほしい、但し目的地は全員が乗船するまで秘密だというのだ。当日、客たちは次々と<ガル3号>に乗り込んできたが、彼らには顔を隠そうとするなどの気配が見られ、しかも航海中、<ガル3号>は六隻の船に進路を妨害される。寺田は不審な船を振り切ろうとするが――潮見島と風見島、瀬戸内海に浮かぶ二つの島の対立に心ならずも巻き込まれた寺田の前に、今度は不審死の謎が立ち塞がる。冒険小説趣向や歴史の謎を取り入れた傑作ミステリ、初文庫化。<多島斗志之コレクション>第二弾。(粗筋紹介より引用)

「小説推理」1995年5月号〜7月号に掲載、その後双葉社から刊行された作品の初文庫化。



この頃の多島斗志之って、いいものを書いているが大ヒットが生まれていなかった時期だろうか。

今でこそ瀬戸内に住んでいるから海上タクシーって知っているけれど、中国地方に来るまではそういうものがあると言うこと自体知らなかった。

海上タクシードライバーという主人公の設定がいいし、ごく近い距離にあるふたつの島の確執という展開も、ミステリファンにはわくわくさせるものがある。冒頭の秘密からはじまる逃走劇にも迫力があるし、その後に起きた不審死の謎も意外なものだった。本格ミステリとしての味わいがあり、歴史の謎という趣向もある。最後は海洋冒険小説といってもいいアクションもある。全体を流れるトーンは、主人公の寺田を探偵役としたハードボイルドなのであるが、さまざまなジャンルをミックスし、それでいて破綻することなく綺麗に仕上がった傑作とよんでよいだろう。発表当時、これほどの作品が特に騒がれなかったというのは不思議なくらいである。

寺田を主人公とした短編集『海上タクシー<ガル3号>備忘録』も文庫化された。とても楽しみである。