- 作者: 多島斗志之
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/07/22
- メディア: 文庫
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「小説推理」1995年5月号〜7月号に掲載、その後双葉社から刊行された作品の初文庫化。
この頃の多島斗志之って、いいものを書いているが大ヒットが生まれていなかった時期だろうか。
今でこそ瀬戸内に住んでいるから海上タクシーって知っているけれど、中国地方に来るまではそういうものがあると言うこと自体知らなかった。
海上タクシードライバーという主人公の設定がいいし、ごく近い距離にあるふたつの島の確執という展開も、ミステリファンにはわくわくさせるものがある。冒頭の秘密からはじまる逃走劇にも迫力があるし、その後に起きた不審死の謎も意外なものだった。本格ミステリとしての味わいがあり、歴史の謎という趣向もある。最後は海洋冒険小説といってもいいアクションもある。全体を流れるトーンは、主人公の寺田を探偵役としたハードボイルドなのであるが、さまざまなジャンルをミックスし、それでいて破綻することなく綺麗に仕上がった傑作とよんでよいだろう。発表当時、これほどの作品が特に騒がれなかったというのは不思議なくらいである。
寺田を主人公とした短編集『海上タクシー<ガル3号>備忘録』も文庫化された。とても楽しみである。