平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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中平邦彦『棋士・その世界』(講談社文庫)

棋士-その世界 (講談社文庫)

棋士-その世界 (講談社文庫)

将棋差しが棋士と呼び名が変わっても、勝負に賭ける内実は変わらない。想像を絶する驚くべき才能が激突する。厳しい勝負の末の喜び、悲哀、孤独。一途で誇り高く、しかも心やさしい男の世界。今まで誰も書き得なかったその世界と人間像を、生き生きと、鋭く、暖かく、爽やかに活写した快著。巻末に将棋百科を付す。(粗筋紹介より引用)

神戸新聞夕刊、1973年7月2日〜10月13日分連載に補筆して収録。1974年に刊行。1979年に文庫化された作品。



著者は神戸新聞社の記者として、長く将棋・囲碁を担当。特に神戸を中心とする藤内門下(内藤国雄九段、谷川浩司九段など)とは付き合いが深い。

その土地土地で“天才”と呼ばれた人たちが集まり、奨励会を勝ち抜いたものだけが晴れて“プロ”の名前を名乗ることができる。そんな“天才”たちの集まりである将棋界には、個性的な棋士が多い。そんな人物像を“凡才”の目で書いた一冊。棋譜という形を通して、プロ棋士の凄さを知ることができても、そのプライベートまではなかなか書くことのできなかった(らしい)時代に、地方紙に書かれた素晴らしい一冊。棋士という存在の凄さと不思議さ。勝負に対する執念と悲哀をここまで書ききった作品は、この頃そうはないだろう。将棋と棋士に対する愛情が深くなければ、ここまで書くことは難しい。まさに名著といっていい。

すでに著者は「個性的な棋士がどんどん少なくなっている」と嘆いているが、実際は違った。確かに破天荒なことをする棋士は減ったし、ステロタイプ棋士たちが存在することも事実。それでもトップになる人たちはどこか違う。勝負に賭ける執念というものは、いつの時代でも変わらない。ただ、見える形が昔と若干異なるだけだ。