平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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蒼井上鷹『出られない五人』(祥伝社 ノン・ノベル)

東京郊外のビル地下にあるバー<ざばずば(the bar's bar)>に集う男女5人。脳溢血で急逝した愛すべき酔いどれ作家・アール柱野を偲び、彼の馴染みの店で一夜語り明かそうという趣旨の会合だった。だが突如身元不明の死体が目の前に転がり出たところから、5人に疑心暗鬼が生じる。殺人犯がこの中にいる!? 翌朝まで鍵をかけられ外に出られぬ密室の中、緊張感は高まっていく。しかし5人には、それぞれ、出るに出られぬ「理由」があったのだ……。(粗筋紹介より引用)

短編「キリングタイム」で小説推理新人賞を受賞した作家の、長編第1作。



処女短編集『九杯目には早すぎる』が好評だった作者の処女長編。期待値は高かったが、残念ながら今ひとつだった。

舞台は改築直前のビルの地下にあるバー。酩酊作家アール・柱野の馴染みの酒場で語り明かす5人。といってもこの酒場、すでに主人が亡くなっているので空き家の状態。しかも当日はビルのシャッターに鍵がかけられていて、外へ出ることができない。お膳立ては揃っているし、そこに出てきた謎の死体で大騒動。十分面白い設定のはずなのだが、読み終わってみると首をひねってしまうのはなぜか。作者は驚かせよう、アッと言わせようと色々ひねりを入れてくるのだが、どうもそれがことごとく空回りで終わっているのが、その原因だと思う。ネタとしてはそれなりに面白いのに、演技や口調が今ひとつで笑うに笑えない芸人を見ているようだ。しかも芸人は笑わそうとさらに熱演するのだが、それがことごとく裏目に出てしまい、余計に白けてしまう。それと同じ空気が、本書に漂っている。

こういう設定の作品なら、登場する人物のいずれもが何らかの事情を抱えているのは当然だろうし、それにまつわるエピソードと本編が絡んでくるところに面白みがあるのだが、その絡み方が今ひとつ。それにどんでん返しを多用したのも失敗した原因か。最後のほうは筆が急いでしまい、理由がよくわからない行動も目立つ。

センスは感じられるのだが、それを面白く見せる方法を間違っている。そんな印象を感じさせる作品だった。読者とのキャッチボールを繰り返すことによって、その欠点が解消されるようになれば、もっと面白くなる作家だと思う。