平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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夏樹静子『死の谷から来た女』(文春文庫)

死の谷から来た女 (文春文庫)

死の谷から来た女 (文春文庫)

四国の珪石鉱山の爆破事故で家族を失った北村恵は、上京して、高級サウナの洗身メイトになった。そこで知り合った巨億の資産をもつ老社長相庭宇吉郎が彼女を養子にしたいと迫る。その本当の狙いは何か。“シンデレラの夢”の裏に隠された罠と野望。得体の知れない恐怖の世界に思わず引き込まれる長篇サスペンス。(粗筋紹介より引用)

1986年9月〜1987年7月まで「週刊文春」に連載、1987年11月に文藝春秋より単行本で出版された作品の文庫化。



最後の解説で週刊誌連載だったんだと知り、納得。盛り上がりそうで盛り上がらなかったり、唐突な場面転換があったり、何故ここでラブシーンが、などといった部分があって首をひねっていたのだが、それが答だったか。

洗身メイトの客である地質関係技術者と恋仲になり、結婚の約束をする。その恋人から老社長を紹介され、ついに養子となる。ところが彼女の廻りで不審死が続く。徐々に豹変する恋人の態度。謎の多い社長の正体。ちょっとミステリを読み慣れた読者なら、彼女が事件に巻き込まれた動機、そして社長の正体や恋人の態度の変貌の理由がわかるだろう。下手すれば、粗筋だけでもだいたい予想が付くかもしれない。読んでいるときは、それなりに読ませるのだが、結末が見え見えなので、テンポの遅さと主人公の馬鹿さ加減に付いていけなくなる。

と思ったら、最後で意外な展開があり、これにはちょっとやられた。週刊誌連載でも、作者が最後まできちんと計算をして物語を組み立てているのだなと思い、そこには感心した。

中盤から終盤のパターン化された部分に、じれったさが残る作品である。