- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/08
- メディア: 単行本
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閉ざされた同心円状の地下空間「暗気館」にあったのは各人の個室、娯楽室、金庫室、監獄室、守衛整備室、霊安室。中央にある食堂。12体のネイティブアメリカンの人形。ガードと呼ばれるロボット。入ってから12時間後、スピーカーから声が流れてきた。実験の目的、そしてボーナスについて。人を殺した者、殺された者、殺した者を指摘した者、指摘した者を補佐した者はより多くの報酬を得ることができる。8日目の午前0時、隠し通路を見つけて外に出た場合、生存者が二名になった場合に実験は終了する。3日目の朝、食堂に集まったのは11人。そして死体が1つ。殺人ゲームの始まりだった。
2007年8月刊行、書き下ろし。
書評を読んでも実物を本屋で見ても、全く読む気にならなかった米澤穂信を初めて読む。防衛反応が働いていたのは事実。多分、この作者を読んでも自分とは合わないだろうな、と。表紙だけを見ると青春ミステリっぽいが、中身は一応本格ミステリであった。だが、自分と合わないという予想は見事に当たった。どこがいいのかさっぱりわからない。
冒頭に警告が書かれている。「この先では、不穏当かつ非論理的な出来事が発生し得ます。それでもよいという方のみ、この先にお進み下さい」、と。読めば読むほど非論理的な出来事が発生する。不出来なクローズドサークルルール、場の空気を無視したシチュエーション。ミステリファンがそろっているわけでもないのに用いられている古典ミステリの引用文。途中で登場人物が指摘するように、いずれも空気が全く読めていない。他にも首をひねるところはいくつかあり、何らかの意図があるのかと思ったら、結末を読んでがっくり。それって反則じゃないかと思うような回答である。警告を信じて、読むのをやめればよかった。まあ、作者が設定した舞台そのものが推理と大きく矛盾しているわけではないから、文句を言うのは筋違いではあるのだが。
舞台の不格好な点ばかりに目がいき、途中の殺し合いにサスペンスの「サ」の字も感じられなかった。犯人指摘に至る道筋はまあ悪くなかったが、それ止まり。盲点というより引っかけに近い条件だな、あれは。ただ、犯人の動機は、当人の告白を聞いても納得いかない。あんな綱渡りの条件を満たそうとするのなら、もっと確実な方法を選ぶはずだね。
最後まで読んでも解けない矛盾もあるしね。流れ弾の可能性も考慮しないなんてどうかしている。そんな時給が求人雑誌やネット上に書かれていたのなら、2ちゃんねるでお祭り騒ぎになっているんじゃないか(笑)。行方不明になった人物に対して警察はどうしたのとか、自分だったら今までの経緯を文章に残しておくとかそういった点に対する配慮も全くされていない。どんなクローズドサークルだって、現実に対する最低限の配慮はされているぞ。
多分本筋とは離れたところで色々といちゃもんを付けているんだろうと思うんだが、そちらばかりが目に入ったんだから仕方がない。本筋に没頭できなかったということは、その程度の作品だったということだろう。
逆算式で詰将棋を作ったはいいが、余詰が多すぎるので無理矢理盤上に駒を配置した結果、不格好なままのものが完成した。そんなイメージを持った作品である。