平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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法月綸太郎『犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題』(光文社 カッパノベルス)

犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (カッパ・ノベルス)

犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (カッパ・ノベルス)

エステサロンの従業員、小出成美は自宅の浴槽で水死させられた。モンスターペアレントに悩まされて教師を退職した奥寺道彦は、帰宅途中に絞殺された。二人の共通点は、タロットカードの「正義」のカードが現場に残されていたことだった。「【天秤座】宿命の交わる城で」。長編『キングを探せ』のパイロット版にもなっているとのこと。

10年前に解散したアイドル三人組、トライスターが所属していた事務所の元社長・折野耕成が殺害された。犯人であるファンクラブ会長・安田玲司はブログに犯行声明文を残し、服毒自殺していた。動機は、嘘の再結成を立ち上げて複数から金を着服した折野への恨み。事件そのものにおかしなところはないが、自殺直前にトライスターの元メンバー3人に電話を掛けていたことから、誰かが黒幕ではないかと綸太郎は睨む。「【蠍座】三人の女神の問題」。

綸太郎は、最近人気上昇中の医師・佐治くるみより、婚約者の獣医師・須坂厚の殺人容疑を晴らしてほしいと依頼される。須坂が経営する動物病院に飼い猫を連れてきた大木裕恵にストーカー行為を受け、殺害したという容疑を受けていた。法月警視によると、須坂の容疑は濃厚で逮捕も間近だという。綸太郎は被害者の使っていた偽名から、オーキュロエの神話に着目する。「【射手座】オーキュロエの死」。

高名な音楽評論家である喜多島昭?が、自宅で拘束されたまま衰弱死していた。足元には、喜多島が自分の血で書いたと思われる、山羊座のシンボルのような記号が残っていた。喜多島はかつて、人気若手フルート奏者・大河内遥香が演奏したドビュッシー『シランクス』の解釈を徹底的に酷評し、自殺させた過去があった。『シランクス』は山羊座の神話を基にした曲であり、編集担当である阿久津宣子はその過去に関連があるのではないかと綸太郎に訴える。「【山羊座】錯乱のシランクス」。

ロザムンド山崎に頼まれ、カリスマ経営コンサルタントである母・三ツ矢瑞代の一人息子であり、女装が趣味である勇馬の相談を受ける綸太郎。勇馬は母に頼まれ、今まで反対されていた女装姿で怪しい男に現金1000万円を手渡した。なんでもこれは、息子の身代金らしいのだが、息子は自分しかいないはず。その後、その怪しい男が殺害された。「【水瓶座】ガニュメデスの骸」。

オカルト研究家であり、警察からも目を付けられている堤豊秋の言葉を信じ込み、美容企業グループの経営者である碓田可南子は、25年前に事故死した息子の生まれ変わりを探していた。甥かつ跡継ぎである相川修造に依頼され、3人まで絞られた候補者の中から選び出す堤の儀式を見張る綸太郎。ところが儀式の終了後、堤が控え室で意識不明の状態に陥った。「【魚座】引き裂かれた双魚」。

2008〜2012年、『ジャーロ』に掲載された「星座シリーズ」の短編を集めたもの。クイーン『犯罪カレンダー』を意識して構成された短編集。



星座シリーズの後編にあたる作品集だが、前作『犯罪ホロスコープI 六人の女王の問題』が5年前というところが、法月らしいと言ったところだろうか。星座等に関するちょっとした蘊蓄があって、事件があって、手掛かりが提示され、推理によって犯人が見つけられるという、定式通りの構成と仕上がりになっているのは前作と変わらない。所々で共通する登場人物(フリージャーナリストの飯田才蔵とか)はいるが、特に前作を読まなくても支障はない。もっとも、シリーズ全体の流れというものもあるので、この手の作品はやはり間隔を置かずに続けて出してほしいものである。はっきり言って、前作がどうだったかなんて、覚えていないしね。

本作品中のベストは「【蠍座】三人の女神の問題」。犯人捜しではなく、黒幕捜しというのはかなり珍しいのではないか。黒幕に辿り着くまでの推理も楽しいし、その意外な真相もなかなか。「【山羊座】錯乱のシランクス」がその次か。ダイイング・メッセージ物だが、その解釈と真相はよく練られており、秀逸。犯人の意外性と、辿り着くまでの推理もよくできている。ただ、最後のこじつけはやりすぎではないか。

最後の二作品は星座との絡みも薄いし、内容も今一つ。「【水瓶座】ガニュメデスの骸」は存在しない息子の誘拐という発想は面白いが、結末が弱い。「【魚座】引き裂かれた双魚」は本格ミステリというよりオカルトに近い作品。短編集の最後がこれじゃあ、ぴりっとしない。

この手の短編集は、せめて1年後ぐらいに出してほしいもの。もうちょっと早く書けないものかねえ。法月は他の本格ミステリ作家と比べ文章が読みやすい作家だから、余計にそう思ってしまう。