平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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藤林愛夏『北の殺人童話』(扶桑社)

北の殺人童話

北の殺人童話

次期教授の依怙贔屓で助教授になれなかった後藤峻介は、大学時代の先輩である警察副所長の大林智視に誘われ、北海道法医学研究所に入る。助教授になれなくてやけ酒を飲み、急性アルコール中毒で運ばれた病院で知り合った看護婦のリカちゃんこと増田襟香は、大叔母であり、北海道で有名なコンツェルン利光の会長、利光郁子に呼ばれ函館に来ていた。郁子の唯一の、そして仲の悪い孫であり、放医研生理学に所属する津川幸彦の嫁候補の一人としてだった。ところがその家で、3人の嫁候補がそれぞれ危ない目に遭っていた。候補の一人がいなくなったことから襟香に乞われ、津川と、研究室の助手である清水緋紗子の3人で屋敷へ向かう後藤。しかしついた途端、襟香の義父である居候の増田が、落下した窓に直撃して死亡した。そして立て続けに起きる殺人事件。裏にはやはり財閥の跡継ぎを巡る争いがあるのか。

第1回FNSミステリー大賞レディース・ミステリー特別賞受賞作。『殺人童話-北のお城のお姫様』を改題し、1989年10月、単行本化。



サントリーミステリー大賞→朝日放送、乱歩賞→フジテレビ、横溝賞→TBS、日本推理サスペンス大賞→日本テレビと、ほとんどのテレビ局が、ミステリの賞を映像化していた頃、いっそのこと自分たちで作っちゃえとやったのがFNSミステリー大賞。大賞、レディース・ミステリー特別賞、ヤング・ミステリー特別賞と3部門あり、選考委員もプロデューサーの岡田裕、映画監督の川島透、シナリオライター竹山洋、そして中島河太郎と、映像端の方が多かったことも特徴であった。ところが集まった作品は低調で、いずれも2時間ドラマの脚本みたいな作品だったらしい。結局選ばれたのが、レディース・ミステリー特別賞の本作品である。

『ミステリマガジン』で新保博久(結城信孝だったかも知れない)が酷評していたことしか覚えていない作品だったが、本棚から見つけてしまったので読んでみることにした(自分でも買っていることを覚えていなかった)。うん、読み終わるまでが苦痛だった。

講評では「アクの強い文章」などと苦しい表現をしているが、要するに下手なだけ。描写も会話も独りよがりだし、さらに説明不足のところが多すぎるから、登場人物がどういう立場なのか、どういう位置付けなのか、どう考えているかなどが全然わからない。なんでこんな会話をしているんだろうと首をひねりながら読み続けて、後で説明がなされて前の会話の意味がわかるような書き方では、読む方が苦労するだけ。それに、主人公である後藤が、ただの優柔不断な中年男性でしかなく、どこにも魅力がないのにはまいった。

内容の方も今一つ。元々説明不足のところもあるが、事件そのものが中途半端。大邸宅を舞台にしているんだから、もう少し派手な事件を起こすべきだろう、ここは。事件の真相に辿り着く過程も、行き当たりばったりというか。トリックらしき物には首をひねるしかない。

とまあ、褒めるところが全く見当たらない。これが特別賞とはいえ受賞作なのだから、集まった作品はもっとレベルが低かったのかと思うと、選考委員や予選委員も相当苦労しただろう。

この賞、第2回からFNSレディース・ミステリー大賞と、女性だけを対象の賞に名前も変わり、選考委員も中島河太郎、夏樹静子、林真理子山口洋子に変わってしまったが、発表結果もないまま消えてしまった。まあ、仕方がないだろうね、この結果じゃ。