平穏に夏休みを終えたい小学生教師、元不倫相手を見返したい料理研究家……。きっかけはほんの些細な秘密だった。保身や油断、猜疑心や傲慢。内部から毒に蝕まれ、気がつけば取返しのつかない場所に立ち尽くしている自分に気づく。凶器のように伽澄まされた「取扱い注意」の傑作短編集。(粗筋紹介より引用)
『オール讀物』2017年から2020年まで掲載された4編に単行本書き下ろしを加え、2020年9月、文藝春秋より単行本刊行。2023年11月、文庫化。
末期癌で余命僅かな妻に促され、夫が語り出したのpは、昔人を死なせたことがある、という話であった。「ただ、運がわかるかっただけ」。
夏休みの小学校。教師の千葉秀則は排水バルブを閉め忘れ、プールの水半分を流してしまった。なんとか誤魔化そうと策を立てるも、同い年の男性教諭、五木田がまとわりついてくる。「埋め合わせ」。
一人息子の提案で6年前に夫婦で移り住んだアパート。暑い夏の日、夫婦の隣に住む元電気屋の老人が、エアコンをつけずに昼寝して、熱中症で死んでしまった。夫は間違って配達されてきた電気代滞納の督促状を妻に渡して隣に届けてもらうはずだったが、認知症になりかけている妻が忘れていたことに気づく。「忘却」。
映画監督の大崎裕也は、初めての監督作品がクランクアップする直前、主演のベテラン俳優岸野紀之に薬物使用疑惑があることを告げられる。本人に確認すると認めたのでカッとなった大崎は、岸野を突き落として死なせてしまう。「お蔵入り」。
人気料理研究家荒井美紀子のサイン会にやってきたのは、9年前、学生時代のバイト先での不倫相手、瀬部庸平だった。その日の夜、バーで庸平と会った美紀子は、仕事を辞め妻と別れたという庸平にお金を貸してしまう。「ミモザ」。
よくもまあ、こんな不幸と悪意の短編を書けるものだと感心してしまう。普通に暮らしていたはずなのに。小さな幸せと栄光を掴めたのに。ちょっとしたことが、今の平穏な生活をぶち壊す。読んでいて面白いのだが、同時に気分が暗くなってしまうような作品ばかり。読者にそう思わせることができるのならば、それだけ作者が上手いということなんだろう。
ベストは「忘却」かな。伏線の貼り方と、最後の落とし所が印象的。
