鎌倉署管内で起こった不審火。多数の消防隊が急行したのは、代々政治家を輩出している家柄の安達家の、由緒ある洋館であった。現在そこには元与党幹事長で82歳でも現職国会議員の安達喜代助、息子で衆議院議員の政孝が住んでいる。鎌倉ではそれぞれ殿様、若様と呼ばれている大物であった。最初は板橋武捜査一課長が鎌倉署に向かったものの、佐藤実県警本部長との話で竜崎本人が向かうこととなった。しかも将来の総理総裁と噂される安達政孝は、人気女優との不倫スキャンダルで世間に騒がれており、安達家周辺にはユーチューバーが群がっていた。さらに政孝に取り入ろうと、同期の八島圭介刑務部長も介入したがる。
竜崎は鎌倉署に捜査本部を設置するが、鎌倉署の森田署長、さらに安達家とつながりがある窪井利弘刑事課長は露骨に安達家に忖度し、通常捜査の妨げとなる。竜崎はサイバー犯罪捜査課の三好基也巡査部長の手を借り、現場にいたユーチューバを追うが、殺人事件が発生する。
『小説新潮』2024年10月号~2025年9月号連載。2026年1月刊行。
隠蔽走査シリーズ第11弾長編は、大物代議士宅への放火、さらに殺人事件に挑む。
週刊誌ネタやユーチューブなどを取り入れた事件の組み立てはうまいし、読ませるものがある。ただ事件そのものの意外性はなく、新味に欠けるのも事実。さらに推理らしい推理もなく、ただ捜査を進めれば終わってしまうのも物足りなさを感じる。
竜崎と板橋のやり取りは相変わらず面白い。お互いの力量を十分に分かったうえで、時には皮肉交じりの会話が繰り広げられるのは、プロフェッショナル同士ならではといえようか。本作ではサイバー犯罪捜査課の三好巡査部長が大きな役割を果たしているが、今後はレギュラーとなってほしいものである。
ネット界隈の“世論”への批判的な視線は納得できるところも多いが、古臭いと言われそうな気もする。竜崎家の家族のやり取りも出てくるが、新しいアイテムが出てきても、結局は古いながらも強固な地盤の上に新しいものが出てきている、ということでも言いたいのだろう。
本作で興味深いところは、キャリア同期である竜崎、八島、警視庁の伊丹俊太郎刑事部長の駆け引きであろうか。露骨に上昇志向を見せる八島、なんだかんだ抜け目なくふるまう伊丹、政治にはとことん無頓着な竜崎。彼らの出世争いが、このシリーズの今後のキーとなりそうな気がする。
シリーズならではの面白さはあるが、内容としては大した波乱も動きもなく、ちょっと刺激に欠けた内容だった。神奈川県警に移ってからまだ日は浅いだろうから、大きな動きはしばらくはないだろうとは思うけれど、このままだと退屈に感じてしまう。次作に期待しよう。
