父を継いで新聞社であるセンティネル社を経営するロマンチストの弟・ビリー(ウィリアム)・チェイスは、「運命の女」がきっといると信じていた。ジェファーソン郡地方検察官であるリアリストの兄・キャル(キャルヴィン)・チェイスはそんな女がいるはずがないと思っていた。新しくセンティネル社の従業員となった美しく謎めいた女・ドーラ・マーチが兄弟の住むアメリカ東部メイン州の小さな町に現れたとき、ふたりは確かに「運命の女」にめぐりあったのだが……。クックがミステリを超えて、またひとつ美しくも悲しい物語を紡ぎだした。(粗筋紹介より引用、一部追記)
2000年、アメリカで発表。2001年9月、邦訳刊行。
作品としては、『夜の記憶』の次に書かれた長編。舞台は1930年代。ドーラ・マーチが小さな町に訪れてから、仲の良かった兄弟の運命の歯車が狂い始め、やがて事件が起きる。
兄であるキャルの一人称で物語は進む。例によって抒情的な文章で丁寧な心理描写が描かれるのはクックならではなのだが、悲劇が見え隠れする分、読んでしんどくなる。この暗さが、クックの味と言ってしまえばそれまでではある。
ただ、キャルがドーラの過去を追いかけてからは、いつものクックとは少し異なる。そして最後に聞こえる、「心の砕ける音」。この描写が絶妙だ。そうか、「記憶」シリーズにある泥沼に突っ込んだ足がさらに沈んでいく恐怖と暗さは、ここから少しずつ変わっていくのか。
クックの作風の変化が漂い始める作品。確かに純文学とミステリの境目にあるような作品で、読んでいるときの重さはちょいとしんどい。
