不可能犯罪、密室殺人、読者への挑戦が挿入された犯人当て、大胆不敵なミスディレクションなど初心者からマニアまで楽しめる本格ミステリ・アンソロジー。選者・法月綸太郎ならではの風刺の利いたものや、本格エッセンスが凝縮された小説などバラエティに富んだ作品が満載! イギリス、アメリカ、日本の三つの国からセレクトされた選りすぐりの謎にあなたも挑戦してみませんか。(粗筋紹介より引用)
2005年10月刊行。北村薫、有栖川有栖に続く本格ミステリ・アンソロジー第三弾。
目次が面白いので、まず並べてみる。ちなみに「~章」の章立ては、辻真先『仮題・中学殺人事件』と同じである。
イントロダクション
眉につばをつけま章
ウディ・アレン「ミスター・ビッグ」
小泉八雲「はかりごと」
ロナルド・A・ノックス「動機」
第一の栞・ハードボイルドなんか怖くない
密室殺人なぜで章
C・デイリー・キング「消えた美人スター」
ジョン・スラデック「密室 もうひとつのフェントン・ワース・ミステリー」
西村京太郎「白い殉教者」
第二の栞・窮すれば通ず――密室短編ベスト3
真犯人はきみで章
エラリー・クイーン「ニック・ザ・ナイフ」
エドマンド・クリスピン&ジェフリー・ブッシュ「誰がベイカーを殺したか?」
中西智明「ひとりじゃ死ねない」
第三の栞・海外クラシック・ベスト20
おわかれしま章
レジナルド・ヒル「脱出経路」
大平健「偽患者の経歴」
ホルヘ・ルイス・ボルヘス「死とコンパス」
あとがき
私立探偵が神を探すというハードボイルドのパロディで、皮肉たっぷりの作品。ウディ・アレン「ミスター・ビッグ」。ウディ・アレンはアメリカ映画界を代表する監督らしいが、映画には全く興味が無いので知らない。
怪談物だが意外な解決を見せる。小泉八雲「はかりごと」。小品だがこれはミステリっぽさが漂う。
乱歩が奇妙な動機の作品として挙げたことで有名なロナルド・A・ノックス「動機」。単行本でも読んでいたが、こういう作品だったのか、という思いの方が強い。
単行本未収録のタラント物の短編、C・デイリー・キング「消えた美人スター」。消失トリックだが、こういうものを読んでもああそうなんだとしか思えず、感心できない体質になっている。
密室もののパロディ、ジョン・スラデック「密室 もうひとつのフェントン・ワース・ミステリー」。嫌いじゃないが、好きでもないな。多分作者自身が一番楽しんでいるに違いない。
『人形はなぜ殺される』西村京太郎版と法月が評した、西村京太郎「白い殉教者」。これだったら他のトリックも併せて長編化も可能だったんじゃないだろうか。やっぱり西村は本格ミステリ大好きだよね、といいたくなるような中編。埋もれている(んだよね、多分)には勿体ない。
ニッキー物のラジオドラマ脚本、エラリー・クイーン「ニック・ザ・ナイフ」。切り裂きジャック物の短編だと、こういう犯人像が多いのはなぜなんだろうか。
宮脇孝雄がクリスピンの作風の特徴である「言葉による騙し」の典型として言及している作品。エドマンド・クリスピン&ジェフリー・ブッシュ「誰がベイカーを殺したか」。犯人当ての短編。個人的にはただのひっかけにしか見えず、馬鹿馬鹿しいのひとこと。
中西智明、幻の短編「ひとりじゃ死ねない」。連続殺人事件の犯人当て。法月はアクロバットな技巧と評しているが、こういうのに感心できない自分がいる。同人誌の内輪受けにしか見えないんだよね。カムバックを目指して長編を書き溜めているとのことだが、残念ながらまだ第二作は出ていない。
「第三の栞」で出てくるベスト20は以下。「シャーロック・ホームズの冒険」「ブラウン神父の童心」「トレント最後の事件」「八点鐘」「カリブ諸島の手がかり」「僧正殺人事件」「毒入りチョコレート事件」「Xの悲劇」「ナイン・テイラーズ」「サンタクロース殺人事件」「ABC殺人事件」「腰抜け連盟」「ユダの窓」「ある詩人への挽歌」「野獣死すべし」「猿来たりなば」「赤い右手」「自宅にて急逝」「五番目のコード」「ママは何でも知っている」。
「密室からの脱出」テーマの隠れた秀作、レジナルド・ヒル「脱出経路」。囚人の短い独白の手記が意外な効果を挙げている。長編作家だと思っていたが、こんな面白い短編も書けるのか。短編集パスコーの幽霊が読みたくなってきた。
精神科医の症例記録集の中の1エピソード。大平健「偽患者の経歴」。なるほど、これは下手なミステリよりずっと読み応えがある。患者との対話の中の小さな矛盾を見逃さない医者の眼力は恐ろしい。
名探偵エリック・レンロットが、ユダヤ教徒の連続殺人事件と謎のメッセージに挑む。アレックス・コックス監督デス&コンパスの原作、ホルヘ・ルイス・ボルヘス「死とコンパス」。ボルヘス流の形而上学ミステリ。最後に置くにはふさわしい作品かも。読むのは苦手かも。
こうやって編まれた作品を見ると、法月はストレートな本格よりも、すこしひねった本格が好きなんだろうなあと思ってしまう。自分とはちょっと合わない作品もあるが、珍しい作品をこれだけ集めてくれたことに満足している。
