平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジューン・ハー『宮廷医女の推理譚』(創元推理文庫)

 1758年、朝鮮王朝期。18歳のベクヒョンは、難関試験を突破し王族の診察を担当する内医女(ネイニョ)になった。だがある夜、ベクヒョンが医術を学んだ恵民署(ヘミンソ)で、4人の女性が殺害される。3人は医女、最後のひとりは外出を禁じられている宮廷女官だった。夜が明けると、殺したのは世子様だと名指しする壁書(ピョクソ)が、漢陽の街中にばら撒かれる。事件を捜査する捕盗庁(ポドチョン)の役人は、怪しい供述をしたベクヒョンの師、ジョンスを殺人犯と断定した。彼女が犯人だと信じられないベクヒョンは、独自に事件を調べはじめ、捕盗庁の青年オジンの協力を得る。師の処刑を防ぐために、なんとしても真相を解明しなければ――。聡明な医女が謎解きに挑む爽快なミステリ。(粗筋紹介より引用、一部追記)
 2022年、アメリカで発表。2023年、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞ヤングアダルト(YA)ミステリ部門賞受賞。アメリカ書店協会(ABA) 独立系書店が選ぶベストセラー(YA部門)、ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)が選ぶベストブック(YA部門)等に選ばれる。2025年9月、邦訳刊行。

 作者は1989年、韓国生まれ。3歳のとき、父親の留学に伴い、カナダ・トロント市移住。韓国の公立高校編入後、トロント大学進学。卒業後、トロント公共図書館に就職。朝鮮史の研究とともに執筆活動を行う。2020年、4月デビュー。本作は作者の3作目。
 事件の舞台は1758年の朝鮮王朝期。本書で出てくる世子(セジャ)とは、第二十一代国王英祖(ヨンジョ)の次男である李愃(イソン)の敬称である。後に荘献(チャンホン)世子と呼ばれる王子は後に悲劇的な死を迎えるのだが、本書はその史実を踏まえて執筆されている。
 宮廷医女が事件を解決するという粗筋を見て、最初は日本のライトノベルかコミックか、と勝手に思ってしまったのだが、史実に則った作品であり、ちょっと予想が外れた。
 儒教の教えによる厳しい身分制度、そして男性が絶対である時代において、下層階級である医女が活躍するという話自体がいかにもYAらしい。
 ほぼ知らない時代ではあるが、巻頭に用語集が用意されており、それほど違和感なく物語世界に入り込むことができる。男女コンビによる事件の捜査、宮廷内のスキャンダル、冤罪サスペンス、さらに事件の謎解きにアクションシーン、そしてロマンスと、王道の道具立てがこれでもかとばかりに散りばめられている。舞台が馴染みのない朝鮮王朝という点を除くと、ありきたりのストーリーという気がしなくもないが、時代背景が初めての世界ということもあり、面白く読むことができた。もし当時の歴史を知っていたら、さらに面白く読むことができたかもしれない。
 いかにも韓国ドラマを小説化しました、みたいな雰囲気の作品(と言っても、韓国ドラマを見たことがないので想像でしかないが)ではあるが、楽しく読むことはできるだろう。もうちょっと意外性のある事件の謎解きや犯人を出せるようになれば、よいのだが。