最新型特殊装備“龍機兵"を擁する警視庁特捜部は、警察内部の偏見に抗いつつ、国際情勢のボーダーレス化と共に変容する犯罪に立ち向かう――由起谷主任が死の床にある元上司の秘密に迫る表題作、特捜部入り前のライザの彷徨を描く「済度」、疑獄事件捜査の末に鈴石主任が悪夢の未来を幻視する「化生」など全8篇を収録。着想の妙と研ぎ澄まされた世界が広がる、2010年代最高のミステリ・シリーズ初の短篇集。(粗筋紹介より引用)
2010年~2014年、『ハヤカワミステリマガジン』『小説新潮』『読楽』『SFマガジン』『小説屋sari-sari』『NOVA+バベル』に掲載。2014年12月、早川書房より単行本刊行。2018年8月、文庫化。
由起谷志郎主任は、高輪署時代にお世話になった元上司の高木が膵臓癌の緊急手術を受け、二か月の入院を経て自宅に戻ったと聞き、見舞いに訪れた。入間郡に建てられたばかりの家は、高木が一人暮らしだった。「火宅」。
事実上消滅した台湾人武器密売組織「
ウガンダの反政府組織LRKの武器調達担当幹部ムサ・ドンゴ・デオプが、正式なパスポートを持って入国。合法的に入国した外国人を連行するわけにはいかず、由起谷班は監視を続けた。数日後、デオプは義手や義足を制作する中堅医療機器メーカーの社員と接触を始めた。「輪廻」。
妹を自ら殺してしまった元IRFのテロリスト・ライザ・ラードナーは、逃亡者を許さない組織の追手を始末しながら、ベネズエラまで流れてきた。謎の人物Xの依頼を受けるために。「済度」。
ロシア人の武器密売商アレクセイ・イワノヴィッチ・ゴルプコフが、墨田区の自らの工場で殺された。一緒に住んでいた10歳の娘・アーニャの聴取のために呼ばれたユーリ・オズノフは、日本語を話せないユーリを見て、モスクワ民警時代のある事件を思い出す。「雪娘」。
母の静江が不倫で棄てられ、首吊り自殺。伯父である岩井伸輔警部補の誘いを断り、一人で下関に残り高校生活を続けた由起谷志郎。ある日、唯一の友人である福本寛一が講演で死亡。警察からは連続ひったくり事案の容疑者として、パトロール警官に追われて足を滑らせ深さ3mの穴に落ち、死亡したと推定された。志郎はそんな警察に反発、しかし岩井は警察の見立てに疑問を抱く。「沙弥」。
長野三瓶参議院議員からの質問リストには、国際テロについてがあった。立て続けに起きた機甲兵装がらみの質問であったことから、警察庁警備局は国会答弁と付随する資料作成を警視庁特捜部に丸投げした。国会答弁の当日は小学二年生の娘・久美子の通うピアノ教室の合同演奏会がある日。高級官僚や政治家の子女、さらに警察幹部の子女も多く通っているため、官僚の社交場として是が非でも出席しなければならない宮近浩二理事官は、城木貴彦理事官と共に徹夜で答弁作成を行う。「勤行」。
吉祥寺で発見された飛び降り死体は、旧財閥系大手商社「海棠商事」を巡る一大疑獄事件の重要参考人であった。マスコミと世論にあおられる形で警視庁は武蔵野署に捜査本部を置いたが、それとは別に特捜部も捜査を始めた。「化生」。
機龍警察シリーズ初の短編集。ほとんどの作品がシリーズ本編と繋がった話であり、タイトルにはいずれも仏教用語が用いられている。
「済度」「沙弥」のような前日譚、「輪廻」「化生」のように今後のシリーズに大きく関わりそうな話もあり、シリーズファンなら読み逃せない一冊である。作者のことだから、全ての話がいずれ関わってくるに違いない。
個人的に一番好きなのは「勤行」。やはり自分は、ハッピーエンドが好きなようだ。
