一高の歴史の中で、これほど奇妙な人間消失事件もないだろう。ある日、本館正面の時計台の中で、一人の学生が忽然と姿を消した。事件には忌まわしい悪魔の影がつきまとっていた。一高生に扮した無気味な男の姿と、一高を憎み呪っていた女の謎。そして事件は悲劇的な結末を迎える――。本格推理白眉である表題作のほか、その続編ともいえる「輓歌」も収録。(粗筋紹介より引用)
1996年4月、刊行。
神津恭介と松下研三との出会いや一高時代に遭遇した事件と解決が描かれた中編「わが一高時代の犯罪」と、その続編であり初恋の女性水町知恵子が登場する中編「輓歌」を収録。角川文庫で両編とも読んでいたけれど、収録刊が違っていたのでそれほど続編ということを意識しなかった記憶がある。そうそう、「輓歌」では山田風太郎との合作『悪霊の群』で共演した名探偵・荊木歓喜がゲスト出演しているのだが、読んだ当時はさっぱりわからなくて、解説を読んで初めてどういう人物か知った次第である。
不可能な消失トリックが有名である「わが一高時代の犯罪」だが、明かされてみると拍子抜けするものである。そして砂の落ちる音がする砂時計の話が有名。まあそんなツッコミはともかく、若き神津恭介と松下研三の物語を楽しむ二編である。それとともに、戦争の足音が近づく暗い時代ならではの描写と、それに負けまいとする一高時代の若さを作者自身が投影させた二編と言っていいと思う。
神津ファンなら忘れてはならない一冊である。
