平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジェイムズ・クラムリー『酔いどれの誇り』(早川書房)

 ヘレン・ダフィは、何もかもがまだ素晴らしかった時代からやって来た女のように思われた。酔っぱらって本当のやつを忘れてしまうときに心の中をよぎる、実際はありもしなかったほのぼのとした少年時代を懐かしく思い出させてくれた……酒びたりの私立探偵ミロは、没落した名家の生まれで、父親の遺産が手に入る日を待っている身。離婚経験は二回。ある日、事務所を訪れた大学教師のヘレンに強く心惹かれる。彼女の依頼は、ここメリウェザーの街に西部史の研究に来て消息がとだえた弟の行方を捜してほしい、というものだった。偶然、ミロの飲み仲間の一人がその若者を覚えていたが、弟をほめそやしていたヘレンの話とはかなり違う生活ぶりだった。ホモセクシュアルの男たちと暮し、自堕落な日々を送っていたという。メリウェザーのような地方の小都市に流れこみ、コミューンを作って麻薬にふける青年たちの一人だったのだろうか? ヘレンのために、ミロは荒廃した街の中へ単身踏みこんでゆくが……やがて弟は、ある酒場で麻薬を撃ち過ぎた死体となって発見された!
 大自然に囲まれた中西部の街を舞台に、ヘミングウェイ、チャンドラーの流れを汲む作者が詩情をこめて謳い上げる、正統ハードボイルドの雄編!(粗筋紹介より引用)
 1975年発表。1984年9月、邦訳刊行。

 モンタナ州ミズーラを一部模した、人口五万の西部の架空の街メリウェザーを舞台にした、ミルトン・チェスター・ミロドラゴヴィッチ三世、探偵ミロの初登場作品。元保安官補の39歳。祖父から相続したミロドラゴヴィッチ・ビルの四階に、“婚姻の解消”が専門の探偵事務所を開いている。ビルの利益は管理会社と最初の妻、そして二人目の妻の遺児にいくため、ほとんど残らない。ミロドラゴヴィッチ家は元は上流回遊であったが、今は落ちぶれ、53際になったら手に入る父親の遺産を待っている状態。
 いつも酔っぱらっているばかりか、時にはドラッグに手を出し、悪態をついてばかりで暴力をふるってはやられるダメ探偵なのだが、なぜかモテるミロ。世の中って理不尽だ(苦笑)。酒場と酔っ払いばかりが登場し、彼らと減らず口を叩くミロ。それでもなぜか依頼にこたえるべく立ち向かうその姿。うーん、ハードボイルドだ。
 チャンドラーのハードボイルドが苦手な私にとって、帯にある「ヘミングウェイ、チャンドラーの香気を今に甦らせる傑作」という惹句が気にかかったのだが、ミロが駄目人間過ぎたおかげで、気にせず読むことができた。それでも、芯の部分にある男としての矜持、そこはフィリップ・マーロウと変わらない。それを人は「正統派ハードボイルド」と呼ぶのだろう。
 文春ミステリーベスト100の読み逃し作品。いや、かなり昔に読んだ記憶があったはずなのに、リストを確認すると読んでいなかったし、本箱にも並んでいた。今頃読んだが、結構面白かった。大嫌いだったチャンドラーも今読めば、少しは楽しめるのかもしれない。そんな気もしてきた。