平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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青野照市『職業としての将棋棋士』(小学館新書)

 50年にわたる現役生活を引退したベテラン棋士が、自身の半生とともに、これまでに出会った棋士や将棋界をとりまく人達のユニークなエピソードを語り尽くす。
 中学を卒業後に上京し、将棋会館に住み込む「塾生」となって、棋士の見習い生活を始めた著者は、破天荒な棋士や、奇行が目立つ貴公子ならぬ奇行士と呼べる棋士など、さまざまな棋士と出会います。将棋界以外には生息していないと思われる、これらの奇人・変人や天才・奇才の生態をさまざまな出来事を交えて論じます。
 そして将棋界のトップリーグであるA級に上るためにどんな試練があって、どう乗り越えたのか、そしてその後の引退まで、心境の変化なども丁寧に描かれていて、将棋や棋士に興味のある方は必見です。
 さらに、「棋士はどんな人と結婚するのか」「一流企業の役員と棋士とどちらが稼ぐのか」「奨励会を退会した人はその後、どんな人生を送っているのか」など、これまであまり語られなかった裏話も公開。将棋ファンはもちろん、そうでない方も楽しめる一冊です。(粗筋紹介より引用)
 2025年10月刊行。

【目次】
第1章 将棋との出会いからプロ棋士になるまで
第2章 騎士は割りの良い職業か?
第3章 四段からA級まで
第4章 天才・奇才・奇人・変人
第5章 対局中の奇行
第6章 棋士になれた人・なれなかった人とならなかった人
第7章 何か変だよ将棋連盟
第8章 40代からの棋士生活
第9章 将棋界を取り巻く人たち
第10章 女流棋士の活躍
第11章 棋士の結婚
第12章 ファン層の変貌
第13章 将棋の海外普及
第14章 現役最後の日

 12人目となる現役50年、26人目となる800勝(通算成績で負け越して達成したのは史上初かつ唯一)、A級11年、一般棋戦優勝4回、タイトル挑戦1回、升田幸三賞2回。日本将棋連盟の理事を長く務め、海外普及にも尽力し、しずおか大賞、外務大臣表彰を受賞。一流棋士として長年活躍して2024年に引退した青野照市が、自らの棋歴を振り返りながら、将棋界の歴史、仕組み、思い出などを語った一冊。
 奇人、変人が多いと言われる将棋界だが、その中ではまともだと将棋ファンからは思われていただろう、青野九段。この一冊を読むと、まともだろうけれどやっぱり棋士なんだなあ、と思ってしまう。
 昔の方が豪快、豪胆、奇天烈などというのはどこの世界でもある話。徐々に世間の目が厳しくなり、少しずつ一般人化し、一部からは「昔の方が面白かった」などと言われるのだが、外野から見る分ならいざ知らず、身近にいる人たちは大変だっただろう。
 将棋界の移り変わり、将棋ファンならでは誰でも感じる疑問などを交えながら、ある意味「天才ではなかった」棋士が50年続いた生き方を語っており、読んでいて非常に面白い。将棋に詳しい人、詳しくな人のどちらでも楽しめるだろう。
 今から見るとちょっとやばい、というところではイニシャルになっているのだが、段位やわかりやすい背景が書かれているとちょっと調べればわかるところは逆に興味深い。名人戦移籍騒動の辺りはさらっと触れながらもちょっと深めに描く、そのバランスも流石だ。どんぶり勘定すぎた将棋連盟が徐々に整備されていく過程も、組織の改善という意味で参考になる。
 一方で本当にまずいところは書かれていないね。まあ暴露本ではないからそこは当然か。
 個人的には、米長邦雄が伝授した口紅のプレゼントの話を書いて欲しかったのだが、そこは流石に控えたかな。