平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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曽根圭介『熱帯夜』(角川ホラー文庫)

 何者かに海中深くに引きずり込まれた元ダイバー。無残な遺体には鉤爪で付けられたかのような不審な傷が残されていた。現場はソナーで監視され、誰も近づけないはずの“音の密室”。事件の調査依頼を引き受けた、防犯コンサルタント(本職は泥棒!?)の榎本と弁護士の純子は、大海原に隠された謎に挑む! (「コロッサスの鉤爪」)。表題作ほか計2編収録。『ミステリークロック』と2冊で贈る、防犯探偵・榎本シリーズ第4弾。(粗筋紹介より引用)
 『小説野性時代』掲載。2017年10月、単行本『ミステリークロック』刊行。4編のうち「鏡の国の殺人」「コロッサスの鉤爪」の2編を分冊し、2020年11月、角川文庫で刊行。
 タイムリミットは2時間。美鈴とボクをヤクザの人質にして金策に走った美鈴の夫は戻ってくるのか? ボクは愛する美鈴を守れるのか!? 緊迫の展開、衝撃のラスト。ミステリとホラーが融合した奇跡の傑作。(粗筋紹介より引用)
 2008年10月、『あげくの果て』の標題で角川書店より単行本刊行。2009年、収録作の「熱帯夜」が第62回日本推理作家協会賞短編賞を受賞。2010年10月、加筆修正し、改題の上文庫化。

 学生時代の友人である藤堂夫妻がいる奥多摩の貸し別荘へ遊びに来たボクだったが、そこへ現れたのは借金をしているヤクザの熊田と弟分のブッチャー。会社が傾いている藤堂は妻の美鈴の父から金を借りるため、ボクの古いアルファロメオを運転し日の出町へ出かけた。ボクは幼馴染である美鈴を助けると決意する。二年前から西多摩で起きた女性連続殺人事件の犯人が捕まったというラジオを聴きながら運転していた看護師のワタシは、日の出町と青梅を隔てる梅ケ谷峠の山道で人を轢いてしまった。そばにはアルファロメオが停まっていた。「熱帯夜」。
 隣国の侵略に対峙するため、70歳以上の高齢者に兵役義務が課せられるようになった。70歳になった哲司は、入隊するための徴兵検査を受ける。敬老主義過激派組織「連合銀軍」のメンバーである光一は懸賞金に目がくらみ、リーダーの奥寺と生き生きシルバー財団の理事長郷田純一郎が会合する時間と場所を警察に密告した。サッカーのスポーツ推薦で高校に合格した虎之助は、行き倒れ死体を回収するアルバイトを続けていた。「あげくの果て」。
 死んだ生物が蘇生し、蘇生者に噛まれたり蘇生生物の肉を食べたりした人がどんどん死んで蘇生者になっていった世界。Q市役所の苦情処理係の職員である鵜飼京一は、新興住宅地にあるゴミ屋敷の問題の担当となる。「最後の言い訳」。

 実力派の割に評価が今一つと思われる曽根圭介。肝心の協会賞受賞作を読んでいなかったことに気付き、手に取ってみた。
 「熱帯夜」と「あげくの果て」は、複数の視点で物語が進み、ラストでそれらが結びついて意外な結末を迎えることとなる。どちらも結末で巧い、と唸りたくなる。たんに技巧だけでなく、ストーリーも鮮やか。どちらかと言えば高齢者問題を扱った「あげくの果て」の方が面白かったかな。単行本時にはこちらが標題となっていたことからも、作者の想いはこちらにあったのではないかと思われる。
 「最後の言い訳」はゾンビ化を扱った短編だが、ゾンビになっても意識が普通に残されているところが面白い。こちらも一種の人種区別を皮肉っており、小学時代の淡い恋心がストーリーに深みを与えている。
 前二作の組み立てについては、今読むと少々単純なところがあるかもしれない。しかしその技巧だけでなく、ストーリーも併せて評価すべき。面白かった。