口減らしで5年前に山間の村を後にして江戸の岡場所で女郎になった15歳のさきは、楼主の嘉兵衛に呼ばれて内所へ向かった。そこに居たのは若い侍と、職人の身なりをした中年の男。八年前、若州小浜藩で勝手方の上席だった藤岡吉三郎は、下役の久保田半蔵による御用金の不正を問いただすも闇討ちにあった。藤岡数馬は仇討ちのため急ぎ元服を済ませ、中間の佐助とともに足取りを追った。そして千十界隈に巣食う無頼の一人に半蔵がいることを知った数馬は、仇を討つためさきに女房を演じてほしいと頼んできた。そして二人は、長屋で夫婦として暮らすこととなった。
2022年、「日盛りの蟬」で第6回大藪春彦新人賞を受賞。
第6回の新人賞は、江戸の敵討ちを題材にした作品。仇討ちのために女郎の少女を夫婦にするという設定は意外性があるし、乗り込む先が「夫婦ものが何組も集まり、相手を取り換えて床入りする遊び場」、いまでいうスワッピングというのには少々驚いた。なるほど、これだったら女郎の少女を借りる理由にも納得がいく。
設定こそやや変わっているが、ストーリー自体はオーソドックスなもの。ただ、その筆力が凄い。おさきや数馬などの登場人物の描き方も過不足なく満足できるものだし、流れるような展開は読者の目を離さない。そして結末まで無駄な部分が何一つない。ある程度終わり方が予想付いたとしても、読み始めたら止まらないだろうし、読み終えたら幸福感に包まれる。この抜群と言える完成度、新人とはとても思えない。
受賞は文句なしの作品。ただただ、読んで楽しんでほしい短編。これは長編も読んでみたくなる。
