貸金庫を襲った強盗団が、身元不明の遺体と鼠の置物を残して姿を消した。三年後、サミット開催が迫るなか要人を搬送するヘリコプター会社の社長が殺される。テロを警戒した政府はポーに事件の捜査を命じるが、MI5の妨害で捜査は遅々として進まない。天才分析者ティリーが発見したデータのおかげで犯人を追いつめたかに見えたが……。二転三転する状況でポーが辿り着いた真実とは。驚愕のシリーズ第四作。(粗筋紹介より引用)
2021年、発表。2022年、CWA賞イアン・フレミング・スチール・ダガー賞受賞。2023年9月、邦訳刊行。
国家犯罪対策庁(NCA)重大犯罪分析課(SCAS)部長刑事〈ワシントン・ポー〉シリーズ第四作。
今回はカンブリアのスカーネス・ホールで開催予定のサミット直前、要人を搬送するヘリコプター会社の経営者クリストファー・ビーアマンが無許可の期間限定売春宿で殺害される。犯行はバットによる滅多打ちという凄惨なものであった。要人の安全確保が極めて重要となるこの状況で、アメリカのシークレット・サービスは少しでも危険があれば訪英を認めない。結果としてアメリカの要人が訪英しなければ、他国の要人も来ないこととなり、長年の準備が水泡に帰す可能性があった。そこでFBIは、イギリスの意向にただ従うのではなく、殺人事件を解決できる本物の刑事を要求する。そして選ばれたのが、FBIから推薦されたポーであった。
前作『キュレーターの殺人』で重要な役割を果たしたメロディ・リーが、今回はFBI特別捜査官として登場。カンブリア州警察犯罪捜査課警視のジョー・ナイチンゲール、同部長刑事のアンドルー・リブも引き続き登場。そしてもちろん、SCAS分析官のティリー・ブラッドショーは本作でも大活躍。病理学者のエステル・ドイル、SCAS責任者のエドワード・ヴァン・ジルなどレギュラーメンバーも健在だ。ただし、SCASのステファニー・フリン警部の出番は少なめなのが残念なところ。
今回はMI5との協力が不可欠となるが、MI5職員のアラスター・ロックはまだしも、連絡調整担当のハンナ・フィンチは最初からポーたちを敵視。前途多難な状況の中、それでもポーとティリーは自らの信念に従い捜査を進めていく。秘密主義のMI5に振り回されながらも、的確に逆襲し利用するポーの姿はさすがの一言。そして、それにしてもフィンチは、ルミノール反応のことも知らないのか? 素人でも知っていそうな検査だが……。
犯人は一体誰なのか? なぜ殺害されたのか? そして、グレイラットの置き物が意味するものとは? フーダニット、フワイダニットの謎が解けたと思った瞬間、更なる展開が待ち受け、最後の最後まで真相が明かされない構成は健在で、読者をハラハラさせる展開が続く。これほど綿密に登場人物を配置し、読者を飽きさせないストーリー作りができることには感心するばかりだ。
ただし、物語終盤に登場するフワイダニットの根本原因となる事件については、理解が難しかった。これは当時イギリスに居なければ実感しづらいかもしれない。本作品の魅力に若干影を落とした点があるとすれば、その部分だろう。
とはいえ、このシリーズの面白さは保証付き。誰にでも安心して薦められる作品である。
