平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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二礼樹『リストランテ・ヴァンピーリ』(新潮社)

 銀翼戦争で36人も殺したオズヴァルドは、いまは会員制の「高級料理店」で解体師として働かされている。食材が入った棺を開けると、金髪のルカが碧い瞳をひ開いた。瞬間、喰われた。助かるためには、ルカの双子の妹アンナの地が必要だ。しかし、彼女は何者かに攫われて行方知れず。アンナの行方を追うオズヴァルドとルカは、元王女で殺し屋のエヴェリスと共に、闇の世界を駆ける!(帯より引用)
 2024年、「悪徳を喰らう」で第11回新潮ミステリー大賞受賞。改題、加筆修正の上、2025年3月、新潮社より単行本刊行。

 作者の二礼(にれ)(いつき)は1997年生まれで、現在はシステムエンジニア。26歳受賞か、若い。
 なんとなくロシア・ウクライナ戦争を思い浮かべるような戦争が発端となり、31年も続いた銀翼戦争。戦争中、36人を殺した殺人鬼と噂されている元軍人のオズヴァルドは、戦争終結4年後の今は、イタリアのリストランテ〈オンブレッロ〉の解体師として働かされている。〈オンブレッロ〉は表面上は会員制の高級店であるが、実際は悪趣味な貴族や鼻持ちならない成金が集まる店であり、裏では政治家やマフィアなどが関係を持つ「晩餐会」を催している。手違いで届いた木製の箱に入った“食材”を、緊急開催の晩餐会で解体することになったオズヴァルドは、準備をしようと冷凍庫で箱を開けると、中から出てきた金髪の若い男に首筋を噛まれた。ここ1か月、街で首を搔き切られて大量の血を失った人間が大量に発見され、吸血鬼の仕業かと騒がれていた。闇医者イーヅァ・フーの家で目覚めたオズヴァルドは、吸血鬼ルカに噛まれたため一週間で死ぬことを告げられる。一緒にいたルカが教えた助かる方法は、ルカの双子の妹アンナの血を飲むこと。ルカに攫われたアンナを一緒に探してほしいと頼まれたオズヴァルドは、4歳下の料理長マウリツィオや〈オンブレッロ〉菓子職人ソニアの協力を得、元王での白髪の殺し屋エヴェリスと共に闇社会を駆け巡る。
 世界三大モンスターの一つ、吸血鬼。その特殊設定から様々な物語が生まれている。今じゃ、ホームズがヴァンパイアになるぐらいだ(『ヴァンデッド』)。手垢がつきすぎた題材だと思っているので、いったいこれをどうミステリに取り入れるのかと思っていたのだが……。
 世界戦争から4年後の世界、マフィアをはじめとした闇組織ばかりの社会、人肉料理を解体しながら料理するリストランテ。これだけでもとんでもない設定だが、出てくる登場人物も危険極まりない。殺し屋エヴァリスは15歳のときに悪逆非道な祖父の国王を殺し、王位継承を拒否してマフィア〈ザイオン〉に入って町一番の殺し屋担ったという設定。他にも国内最大の航空会社〈ファルファッラ航空〉の経営者で“魔女”と呼ばれているビアンカ。そのビアンカの命令なら何でもする双子キャンディとテディ。
 とにかく近未来の異様な舞台と個性的すぎるキャラクターがストーリーとマッチしているところがお見事。さらに二人称で読者に呼び掛ける構成もうまい。それに吸血鬼という設定をうまく生かした謎と解決もよくできている。
 この世界観を成立させただけでポイントが高いが、ファンタジー要素と謎解きをうまく絡めているアイディアが面白い。これは選考委員が高評価なのもうなずける。これでもう少し書き込みがあったらと思うところがないでもないが、新人作家としては上出来の部類だろう。