藤子・F・不二雄に大きな影響を受けた豪華な執筆陣による、色とりどりのトリビュート作品。藤子・F・不二雄生誕80周年記念MOOK『Fライフ』3号(2014年)に掲載された8作品に、新たに描き下ろされた8作品を加えた計16作品を収録。(粗筋紹介より引用) 2024年11月刊行。
藤子・F・不二雄生誕90周年を迎えて刊行されたトリビュート本。16名の漫画家によるトリビュート作品に加え、インタビュー、さらに各作家が選んだお気に入りの藤子・F・不二雄作品を収録。ということで、思っていたより分厚かった。
収録作品は以下。各作家の作品と、収録されたお気に入りのF作品を並べている。※は『Fライフ』掲載作品。
- 渡辺航「のび太のさがしもの」、ドラえもん「未来からの買いもの」
- 高松美咲「エリ様、お料理する」、チンプイ「魅惑のマール料理」
- 奥浩哉「Another Perman」、パーマン「はじめましてパー子です」
- 浅野いにお「D」、ドラえもん「もしもボックス」 ※
- 高橋聖一「今日が地球の最終回」+「大長編 1ページだけの鉄人戦争」、SF短編「イヤなイヤなイヤな奴」 ※
- 石黒正数「音速の箱」、エスパー魔美「地底からの声」 ※
- 大童澄瞳「ねがい星の災難」、ドラえもん「ねがい星」
- 小玉ユキ「キテレツな彼のこと」、キテレツ大百科「空き地の銀世界」 ※
- 木村風太「運命のT・P」、T・Pぼん「ピラミッドの秘密」
- 今井哲也「FはフューチャーのF」、ドラえもん「ボールに乗って」 ※
- 山口つばさ「もう一人の流血鬼」、SF短編「流血鬼」
- モリタイシ「ラーマン」、パーマン「お金のはじまり」 ※
- 真造圭伍「スネオボーイ」、ドラえもん「バッジを作ろう」
- とよ田みのる「にゃんポコ」、ポコニャン「けっさく映画をつくる」 ※
- 山本さほ「大人になりたくない」、ドラえもん「人生やりなおし機」
- 吉崎観音「時空の島にて」、キテレツ大百科「水ねん土で子どもビル」 ※
渡辺航、高松美咲は原作通りの世界。個人的にはこういう作品をもっと読めると思っていたのだが(それが悪いという意味ではない)。
奥浩哉は未来の『パーマン』。浅野いにおは未来の『ドラえもん』。方向性は全然違うが、どちらも子供が大人になっていく過程の1ページを切り取っていて面白い。ただ、のび太としずかは結ばれていてほしいんだけどね。
高橋聖一はうまいね。こういう料理の仕方が最高。1ページ作品も笑えます。しかし『モジャ公』が好きならそちらのトリビュートも読んでみたかったな。
石黒正数「音速の箱」は『エスパー魔美』のトリビュートだが、意外な結末が面白い。
大童澄瞳は『ドラえもん』のエピソードの多くが含まれているところが素晴らしい。このオチも笑えます。
小玉ユキは未来の『キテレツ大百科』だけど、『ドラえもん』の有名贋作最終回の影が見え隠れするのはちょっと残念。
木村風太は自らの作品と『T・Pぼん』のコラボ。コラボ系がこれともう1作だけなのは意外。ただ、コラボ元の『運命の巻戻士』を知らないので……。
今井哲也はちょっと不思議な作品。そして、アンソロジーとしてたった2ページの作品を選ぶところが素晴らしい。自身が描いた作品と重なるところがある。
山口つばさはSF短編好きだな、と思わせる一品。
モリタイシもちょっと不思議な作品。『パーマン』をここまでアレンジできるとは。
真造圭伍はスネ夫の未来を描いた作品。これも愛情たっぷり。
とよ田みのるは『ポコニャン』のパロディ。それよりもアンソロジーに選んだ作品の方に惹かれたな。藤子Fはこのネタ、大好きだね。『ドラえもん』『キテレツ大百科』でもやっているし。『オバケのQ太郎』には幻灯機のエピソードがある。そもそも作品内で出てくる自画像には、ビデオを持っているものもある。『まんが道』に藤子Fが幻灯機を作ったエピソードが出てくるが、本当に好きだったんだろうな。
山本さほは『ドラえもん』を使った作品。これは作者のインタビュー記事と合わせて読むと、また違った感慨が湧いてくる。
吉崎観音は『ケロロ軍曹』の世界で藤子Fと遭遇する話。これも『ケロロ軍曹』を読んでいないので……。
個人的にはもっと藤子F作品の絵に寄せてくるかと思っていたのだが、そういう作品は全然なかった。まあ、この方が漫画家の個性が楽しめるだろう。ただ、知っている漫画家が奥浩哉しかいない。最近の漫画を全然読んでいないね、自分。
正直苦手な絵もあったけれど、アイディアは面白いものが多い。このカップルの未来は、というものが少なかった。個人的にはそういうのが大好きなんだけど、やはりそれは藤子Fの世界とはちょっと違うか。『オバケのQ太郎』『21エモン』『モジャ公』あたりのトリビュート作品は読んでみたかった。『みきおとミキオ』とか『ミラ・クル・1』とか選ぶ人がいたら凄いと思ったんだけどな。
予想外の作品、予想外の絵も結構あったが、藤子Fの世界を十分楽しめるトリビュート本ではあった。また別の漫画家によるものも読んでみたい。