平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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呉勝浩『爆弾』(講談社)

 些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。警察は爆発を止めることができるのか。爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。(粗筋紹介より引用)
 『小説現代』2022年3月号掲載。2022年4月、講談社より単行本刊行。

 『このミステリーがすごい! 2023年版』(宝島社)、『ミステリが読みたい! 2023年版』(ハヤカワミステリマガジン2023年1月号)で1位を獲得した話題作。2も出たのでそろそろ読んでみようと、積ん読の中から掘り出してきた。すぐに手に取らなかったのは、乱歩賞受賞作『道徳の時間』が評価できなかったため。その後大藪春彦賞、協会賞等を受賞するなどの活躍しているのは知っていたのだが。
 中年男スズキタゴサクという犯人の存在感が際立っており、中盤までは独壇場と言ってもいい。爆弾そのものも脅威だが、それよりも言葉の爆弾の方が恐ろしい。
 振り回される警察だが、後半からは犯人と刑事の思想のぶつかり合いともいえるような白熱のやり取りが繰り広げられる。互いにナイフを振り回すような、危険すぎるやり取り。時には暗器が飛んでくるから、目に見えないものにも気を付けないといけない。そして警察の仲間内も意図しないまま背中からナイフを刺すような言動・行動が降りかかるのだから、何が味方なのかわからない恐怖もある。
 さらに怖いのは、パニックになる群集心理。これは事件解決後に、ごく一部の者を除いてその狂気を忘れてしまう群集心理も含まれる。
 そんなパニック要素に加え、スズキタゴサクから投げかけられた言葉を基にした爆弾探しの要素、さらに本当にスズキタゴサクが犯人なのか、という事件の根幹にもかかわる要素まで含まれるのだから、お見事。作者もよくぞここまで計算して書いたものだと、感心してしまった。
 確かにこれは、2022年を代表する一冊だった。この結末で、続編が出されるのか。こんなすごい作品だったんだと、びっくりした次第。