ミステリ作家デビューを夢見る小松立人は、学生時代にとある犯罪に手を染めた。家庭教師先のタンス預金二千万円を、知人同士四人でこっそり盗み出したのだ。ほとぼりの冷めた十年後、盗んだ金を掘り起こすために集まった小松たちは、崖崩れに巻き込まれて命を落とした。 ――はずなのに彼らは、死神から一週間の猶予期間を申し渡され、事故の七日前に戻る。期間中は仲間を殺害することで相手の残りの寿命を奪うことも可能だという。死までの一週間、小松はこの奇妙な出来事を小説に仕立てて新人賞への投稿を目指すことに。しかし、仲間たちは次々と……。独特な感性で描く、“特殊設定×サスペンス”長編。(粗筋紹介より引用)
2023年、第33回鮎川哲也賞優秀賞受賞。改稿のうえ、2024年9月、東京創元社より単行本刊行。
作者の小松立人(こまつ たひと)は大阪生まれ、沖縄県在住。現在は宮古島市役所勤務。大学四年の時、鮎川哲也編『本格推理11』(光文社文庫)に「キャンプでの出来事」が収録されている。本名の漢字は同じだが、ペンネームの名前は「こまったひと」から来ている。
作者と名前が同じ小松立人が主人公。大学時代に素人公募の本格ミステリアンソロジーに選ばれたというのは、作者と同じ経歴だが、その後はミステリー作家を夢見ながらアルバイトを掛け持ちで生計を立てている、というのはさすがに異なっている。最初はメタになるのでは、と危惧していたが、さすがにそんなことはなかった。
メインとなるのは、語り手でもあるミステリー作家志望の小松立人、高校の同級生かつ同じ大学の同じ学部、そして青年実業家の遊び人田村悟士、別大学で祖父がゼネコン経営者の安東達也、そして安東と同級生でゼネコンに勤務する三宅正浩の4人。死神が登場して一週間の猶予をもらったが、なぜか次々と仲間が殺されていく。
フーダニットはわかりやすいので、見どころはフワイダニット。はっきり言って、ワンアイディア。まあ、この結末まで引っ張る力は大したもの。よくよく考えてみるとこの作品を書くためだけのご都合主義な設定であり、何のための1週間ルールなのかがさっぱり語られないところはどうかと思う。そこさえ無視すれば、読める作品。
受賞作に選ぶにはちょっとと思うが、このアイディアは捨てがたい。優秀賞に選び、1年かけても改稿させた出版社の気持ちはわかる。最近の傾向からすると長編としては短めで、内容も含め物足りないと思う人がいてもおかしくはないが、このシンプルなトリックだけで書き切ったことを褒めたい作品である。
