──世界編纂──
とある神の眷属であり巫女でもある予言者は魔王を倒してくれる勇者を求め、何度も世界をやり直していた。
世界編纂を繰り返す中、金の亡者と噂され理想の勇者像からかけ離れている冒険者とその一行に興味を抱いた予言者は、彼を勇者と認める。
彼らを見守る中、市井で聞く噂とは異なる一面に少しずつ惹かれはじめると同時に、彼らを逃れられない死の未来から救おうと導く予言者だが……。
これは予言者がある勇者とともにあろうとした物語。(粗筋紹介より引用)
2024年8月、書下ろし刊行。
2023年のスマッシュ・ヒット作品『誰が勇者を殺したか』。ミステリファンにもお勧めしたい一冊であるが、まさか続編が出版されるとは思わなかった。続編と言っても、物語自体は前作1冊で完結しており、本作品は前作の補完という形になっている。
今回の登場人物は金目当ての冒険者レナード、槍術の使い手エフセイ、元聖女候補の僧侶ニーナ、元貴族の魔法使いソフィアの4人。4人の共通点は、10年前に魔王軍がマリカ国へ侵攻してきたときに、義勇軍に参加していること。そしてその戦いでほぼ全滅した義勇軍の中で生き残ったこと。当時最強と言われた戦士ルークとその妻で魔法使いのレイに関わりがあること。いずれも30代のメンバーである。
冒頭でレナードの悪い評判が語られ、それからレナード一行の戦いの軌跡、合間にそれぞれの過去が語られる展開は、駄犬の小説で見られるパターンである。なるほど、今回もそう来るのか、と思っていたが、さすがにワンパターンなことはしなかった。予言者とレナードのやり取りの中で、本作品世界の隠された苦悩を浮かび上がらせるところは非常に巧い。前作の重要登場人物も物語に巧く絡めるとともに、前作の心残りな点(笑)もちょっと触れるあたりは、読者のツボを心得ているというか。
それにしても、ラノベでこんな30代の偽悪的な人物とメンバーを堂々と主人公に持ってくるあたり、作者は読者のゾーンを少し高めに設定しているんじゃないだろうか。まあ、確かに中高生向けというよりは大人向けに近い内容になっているが。
コミカライズもされているし、もしかしたらまだ続くのかな、このシリーズ。本作も面白かったけれど、さすがにこれ以上補完するのは厳しいとは思うのだが。それに作者、立て続けに出版しているけれど、大丈夫なのか。