平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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石ノ森章太郎原作『サイボーグ009トリビュート』(河出文庫)

 天才マンガ家、石ノ森章太郎による不朽の名作『サイボーグ009』。その誕生六十周年を記念して、“九人の戦鬼”が終結! 豪華執筆陣が洗ったな息吹を吹き込んだサイボーグ戦士たちの活躍が、活字の世界でいま始まる。テレビアニメシリーズ第一作の脚本を務めた辻真先も特別参加。全九編収録の書き下ろしアンソロジー。(粗筋紹介より引用)2024年7月、書下ろし刊行。
【収録作品】
辻真先「平和の戦士は死なず」
 テレビシリーズ第1作の名エピソード、同題の最終回を、オリジナル脚本家が自らリメイク!
●斜線堂有紀「アプローズ、アプローズ」
 原作屈指の名作「地下帝国"ヨミ"編」後日譚。サイボーグ戦士、誰がために闘う?
高野史緒「孤独な耳」
 003のバレエ公演にともない、001=イワン・ウイスキーが初めて故国に帰郷する。
●酉島伝法「八つの部屋」
 ジェット・リンクはいかにして002になったか。ゼロゼロナンバー・サイボーグ誕生秘話。
池澤春菜「アルテミス・コーリング」
 その目と耳であるがゆえに、003=フランソワーズ・アルヌールが出会えた奇蹟。
長谷敏司「wash」
 60年にわたり戦い続けた004=アルベルト・ハインリヒ、過去の亡霊と再会。
斧田小夜「食火炭」
 張々湖飯店を見舞った奇妙な出来事が、006=張々湖を過去へといざなう。
藤井太洋「海はどこにでも」
 火星探査団救難船に潜入捜査中の008=ピュンマは、謎の事故に巻き込まれる。
円城塔「クーブラ・カーン」
 009=島村ジョーたち9人のサイボーグ。彼らは、楽園を築く者たちか。(以上、粗筋紹介より引用)

 『サイボーグ009』は好きなマンガの一つ。少なくとも石ノ森が描いた009は全部読んでいるはず。当然小野寺丈の小説版完結編も読んでいる。ただ、最近の別作家が描いているものは読んでない。気になるので、読んでみようという気にはさせられる。さすがにアニメは第2期と映画『超銀河伝説』ぐらいしてかみていない。第1期の映画版2作はテレビでよく放送されていたなあ。
 ということで、009ファンなら読んでみようという気にさせられる一冊である。特に辻真先が自らのテレビ脚本を小説化しているというのだから、読まない理由はない。肝心のアニメを見ていなかったからよく知らなかったが、「地下帝国"ヨミ"編」のエンドシーンをオマージュしているのね。これをテレビでリアルタイムに見ていたら、感動するだろうなあ。
 斜線堂有紀は「地下帝国"ヨミ"編」の後日談。009と001の実際に交わしていそうな会話がうまいと思う。
 高野史緒は001が主人公だが、003のウェイトも大きい。001の故郷ロシアと、バレリーナとしての003をうまく絡ませている。
 酉島伝法は002誕生秘話。ただ、00ナンバーは1か国1人、別人種を攫ってくるという原作の設定とは異なっている。
 池澤春菜は003が主人公。003の能力をうまく生かした作品である。池澤春菜が声優だとは知っていたが、小説を書くことは知らなかった。
 長谷敏司は改造から60年後の004が主人公。この発想は思いつかなかった。しかしサイボーグ戦士って年を取るのだろうか。特に脳の改造出術しか受けていない001はどうなるんだろう。見てみたい気もするし、見るのは怖い気もするし。だけど00ナンバーって人造皮膚だよな。既に初老のギルモア博士はどうなるんだろうという問いにも答えているところが面白い。本アンソロジーの個人的ベスト。
 斧田小夜は006が主人公。006の改造前の過去を知る人物が登場。やはり006、張々湖にはコメディメーカーとして明るくいてほしい。
 藤井太洋は008が主人公。008は作品中でも登場率が少ないこともあり、心理描写を含め書くのがなかなか難しかっただろうなと思わせる作品に仕上がっている。
 円城塔は9人の戦いを主軸にした少々ハードな作品。この枚数で書き切るのは難しかったと思う。それにしても、地の文で「島村」「リンク」「ブリテン」「ウイスキー」と呼んでいる作品を読むのは初めてである。「ジェロニモ」「ハインリヒ」「張」「アルヌール」「ピュンマ」はあるが。

 007と005が主人公の作品は書かれていない。005はなかなか難しいと思うが、007は書きやすいと思うのだが。実際、本アンソロジーでも、一番登場しているのは007だ。コメディを演じつつ、時にはシリアスに、そして時には強烈な批判を言うことができる性格もそうだが、何よりへそを押したら何にでも変身できるというその使い勝手のいい能力のおかげもあるだろう。確か原作でも、009の次に登場しているのが007だったと思う。『サイボーグ009コンプリートブック』(メディアファクトリー)で調べているのだが、本棚を捜しても見つからないので記憶のみになるのだが。(あとで確認したら、004が二番目で、007が三番目だった)
 『サイボーグ009』という作品は1964年から1992年まで断続的に描かれており、年月や掲載誌、それに作者自身の構想の変更などによって設定が異なっている部分もあるため、どの時代の009たちを切り取るかというのは非常に難しいだろう。それでも果敢に挑戦してくれた9人には感謝したい。