平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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貫井徳郎『ひとつの祖国』(朝日新聞出版)

 第二次大戦後、日本は大日本国(西日本)と日本人民謡倭国(東日本)に分断された。ベルリンの壁が崩壊するころ、日本もひとつの国に統一さえた。だが四半世紀を過ぎても格差は埋まらず、再度、東日本の独立を目指すテロ組織が暗躍しており……。
 テロ組織と意図しない形で関わることになった一条昇と、その行方を追うことになる幼馴染で自衛隊特務連隊に所属する辺見公佑。かつてふたつの国に分かれていた架空の日本を舞台に、二人の青年の友情が交差する。(帯より引用)
 『小説トリッパー』2022年春季号~2023年冬季号連載。2024年5月、単行本刊行。

 ドイツのように東西に分断され、そしてひとつの国に統一されるも、東西の格差が残った状態、という設定。東日本人である一条昇と、西日本人である辺見公佑が親友だったのは、父親が同じ自衛隊員で、東京の宿舎に隣同士で住んでいたことがきっかけであった。大学を出た後、辺見は自衛隊員となったが、一条は自衛隊に入らず、そして正規雇用されず引越業者の契約社員となった。二人は今でも月に一回は会って、近況を報告していた。そして28歳の時、事件は起きる。一条は東日本独立を目指すテロ組織MASAKADOと意図せぬ形で関わるようになり、辺見は自衛隊特務連隊所属としてテロ組織を取り締まる側であった。
 架空の日本を舞台にした社会派作品。東西に分かれていたという設定こそあるものの、国民の経済格差、技術大国ニッポンの凋落などは、現実にの日本にも通じる問題である。
 テロ組織に巻き込まれていく一条の苦悩、そして一条を気遣いながらもテロ組織を追い続ける辺見の心の動きはよく描けている。一条をテロ組織に誘う同僚の堀越聖子、そして辺見と一緒にテロ組織を追う香坂衣梨奈も悪くない。特に徐々に深みにはまっていく一条の描写は秀逸。
 ところがである。ここまで舞台を作っているのに、この終わり方は何だろう。打ち切りになるからとりあえず結末だけ書きました、みたいな投げっ放しである。特に一条がテロ組織に巻き込まれた理由が、余りにも貧弱。これだったら、わざわざふたつの日本などという設定は必要なかったんじゃないか。設定を全く生かせていない。それに一条と辺見、ほとんど交差していないじゃないか。あの人物がどうなったのか、あの組織がどうなったのかなども全然書かれていない。最後はどうやって行くことができたんだ?
 はっきり言ってがっかりしました。いや、リーダビリティはあるんだけれどね。だからこそ余計に、この終わり方に腹が立つ。計画倒れの作品。ふたつの日本という設定を生かすストーリーを、一から書き直した方がいいよ。